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1991年10月大阪市内の保育園で,園児82名中27名,33%が発症する集団下痢が発生した。患者の発生を年齢別にみると,0歳児12名中10名(83%),1歳児12名中6名(50%),2歳児11名中5名(45%),3歳児12名中3名(25%),4歳児20名中2名(10%),5歳児15名中1名(7%)と年齢が高くなるにしたがって発症率は低くなり,0〜2歳児で患者の78%を占めた。また,職員は43名中保母3名(7%)に胃腸炎症状が認められたに過ぎず,今回の集団下痢はおもに乳幼児の間で発生した。患者の症状は下痢(73%)と嘔吐(53%)が多く,腹痛(10%)と発熱(3%,37.5℃)は少なかった。
下痢症の園内集団発生であることから食中毒事件として調査が開始されたが,患者の発生が10月23〜31日まで8日間と比較的長く続いている(図1)ことから感染症の疑いもあり,細菌学的およびウイルス学的調査を行った。
細菌検査では検食,ふきとり,水道水,ふん便(患者および健康者)等の材料を検査したが,赤痢菌および食中毒菌は検出されなかった。ウイルス調査では細菌検査と同じふん便材料について培養細胞を用いたウイルス分離と電顕観察を行った。ウイルス分離は陰性であったが,電顕法により患者園児15名中10名と健康園児3名中1名からNorwalk様のSRSVが検出された。患者保母2名と健康な保母や調理従事者9名についてはSRSVは検出されなかった。血清試験が行えなかったので確定できないが,患者園児のSRSV検出率が15名中10名,67%と高率であることからSRSVによる集団下痢と考えられた。また,喫食調査から原因食品が推定されなかったこと,通常,SRSVによる生カキ喫食による食中毒事例の患者発生は図1に示した今回の状況と異なって3日以内には終息している事から,食品等の単一暴露型の事件とは考えられなかった。
園児の患者ふん便からのSRSVの検出状況を表1に示した。4病日,5病日に採取されたふん便でも検出率が3/4,4/4と高いのが特徴であった。この結果は我々がカキの食中毒事例について得ているSRSVの検出率とふん便採取時期との関係,3病日までの検出率は40%以上,4,5病日では30%以下(Haruki et al., Microbiol. Immunol. 35,1991),と異なっている。
患者の有症期間を年齢別に表2に示した。0歳児は10名中7名,1歳児は6名中4名,2歳児は5名中1名が4日以上の有症日数を示したのに比し,3歳児以上の患者の有症日数は1日であった。このことと,SRSVカキ食中毒事件では成人の有症日数は長くて3日であることを併せて考えると,0歳児,1歳児のSRSV下痢症の有症日数は明らかに長いと言える。
今回の事件では4病日,5病日でもSRSVの検出率が高いことを示したが,これは患者の有症日数が長いことに起因している。すなわち,SRSV陽性者のふん便は有症期間中か治癒日に採取されていた。また,0歳児,1歳児の有症日数が長いことを示したが,要因として当然患者の年齢の差異があげられる。しかし,感染源の差異(感染量の差異)やSRSVの性状の差異等も考えられるので,今後も調査研究を進めたい。
大阪市立環境科学研究所
春木 孝祐,勢戸 祥介,村山 司,永井 正一,花岡 正季,木村 輝男
図1.園児の患者発生状況
表1.患者園児ふん便採取日別SRSV検出率
表2.胃腸炎症状の有症期間
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