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流行性髄膜炎はわが国では比較的まれな疾患となったが,1992年4月9日,都内中野区および杉並区において同日に2事例の発生届が出され,その接点が憂慮された。結果的に関連性は認められなかったが,その概要を報告する。
事例1
患者は中野区のK保育園園児(2歳男児)で,4月3日まで変わりなく通園していた。4月5日発熱と嘔吐で発症,近医に通院したが,項部強直,意識障害のため同7日にN大学病院に入院した。入院時の脊髄液および咽頭よりグラム陰性双球菌が分離された。同9日に髄幕炎菌と同定され,患者はただちに都立豊島病院に送院された。N大学病院入院時からアンピシリンとセフォタキシム,転院後はアンピシリンのみを計7日間投与され,後遺症なく治癒した。分離株は都立衛生研究所において髄膜炎菌B群と群別された。
所轄保健所は防疫活動を開始し,4月10日および11日に患者関係者すなわち患者家族4名(両親,兄,妹),K保育園職員16名および園児51名から保菌者検索の目的で咽頭粘液を採取した。検体はただちに都立衛生研究所に搬送され,細菌検査が行われた。
保菌者検索の結果は下記のとおりである。患者家族は全員陰性であった。園児1名(3歳女児)からB群髄膜炎菌が,さらにその両親からも同群菌が検出されたが,祖父母は陰性であった。保菌者の父親の勤務先職員5名も陰性であった。
患者と保菌者の保育室は異なっており,保菌者が感染源とは考え難く,感染経路については不明であった。
患者家族および保菌者家族は全員都立豊島病院でリファンピシン2日間投与を受け,除菌を確認された。保菌者の母親は妊娠の疑いで治療が延期されたため,4回の菌検索中2回菌が検出されたが,服薬後除菌された。
事例2
患者は杉並区在住の主婦(54歳)で,4月4日発熱,頭痛,悪心,嘔吐で発症,同5日にK病院に入院した。入院時の脊髄液からグラム陰性双球菌が検出され,同9日に髄膜炎菌と同定された。患者は10日に豊島病院に送院された。K病院入院時からアンピシリンとセフォタキシムを併用投与,転院後はアンピシリンを単独投与されたが,回復が遅れたためセフトリアキソンに変更された。現在経過観察中である。分離株はβラクタマーゼ非産生のB群髄膜炎菌で,上記3薬剤に感受性である。
4月11日,所轄保健所は患者家族3名(夫,息子2名)の咽頭粘液を採取,都立衛生研究所で培養を行った結果,夫からは患者と同じB群菌が,息子2名からは群別不能の髄膜炎菌が検出された。
患者家族の生活状況は,夫は飲食業を営み,患者はその手伝いをし,息子は会社員と学生である。1家族からタイプの異なる2種の髄膜炎菌が検出された経路は不明であるが,患者は家族内感染したと考えられる。
家族は全員都立豊島病院でリファンピシン2日間投与を受け,除菌を確認された。
東京都立衛生研究所 柏木 義勝,遠藤 美代子,奥野 ルミ,五十嵐 英夫
東京都衛生局医療福祉部結核感染症課 中村 清純
中野区中野北保健所 鈴木 勲,河合 琴子
杉並区杉並西保健所 土井 道子
東京都立豊島病院 相楽 裕子,内山 晃,新田 義朗
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