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アデノウイルス40型,41型(Ad40,Ad41)は腸管アデノウイルス(EAd)と呼ばれ,ロタウイルス,小型球形ウイルスと共に小児急性胃腸炎の重要な病原体である。検査方法としては,培養細胞(Graham293細胞)を用いたウイルス分離や制限酵素によるウイルスDNA断片泳動像の解析等があるが,これらの方法は特殊な器具・試薬や繁雑な操作を要する。
そこで,我々は簡便かつ迅速にEAdを検出−型別するために,愛知衛研の西尾と共同して,Ad40特異,Ad41特異およびAd群特異の3種類のモノクローナル抗体を用いたELISA法を開発した。1,2)この方法によれば,電子顕微鏡(EM)で検出されるAdの8割近くが糞便から直接型別が可能で,市販のロタウイルス検出キットと同様に,EMを用いないウイルス性胃腸炎の病原検索に有用と考えられる。
今回は,この方法を用いて確認されたEAd下痢症の疫学および臨床像を報告する。
1981年から1992年2月の間に採取した小児急性胃腸炎患者糞便5,471例についてEM検査を行い239例(4.4%)のAdを検出した。そのうち残存していた207例を材料として血清型別を行った。その結果は表に示したように159例(76.8%)がELlSA法で陽性を示した。そのうちAd40,Ad41がそれぞれ58例,両者の混合感染が1例同定された。Ad40,Ad41のモノクローナル抗体に反応せずAd群特異のみに反応したものが42例あったが,これらは非EAdと判定した。
EAdの検出状況から流行型の年次別の推移がみられ,1981年から1983年はAd40とAd41が同程度,1984年−1985年はAd40のみで,1986年から1989年はAd41が主となり,1991年−1992年はAd41のみであった。特に,1986年を境に,主流行型がAd40からAd41に変化していることが示された。Ad40とAd41の月別検出頻度はほぼ同じで,血清型による差はほとんど認められなかった。
また,EAdは3歳以下で検出頻度が高く,その後は加齢とともに減少する傾向を示した。EAd検出者の74%が3歳以下であった。Ad40とAd41では年齢分布に差は認められなかった。
臨床症状では,EAd下痢症はAd40,Ad41共に37℃以上の発熱を伴うものが約30%で,非EAdと比べて低率であった。また,Ad40,Ad41とも全例に下痢が,数例に上気道症状がみられた。両血清型を比較すると,Ad41は嘔吐・嘔気がそれぞれ53%,40%,Ad40ではそれぞれ36%,27%で,Ad41の嘔吐・嘔気の頻度が高い傾向を示した。
今回,我々が報告したEAd両型の流行血清型の消長は,東京地域,愛知県,香川県等とほぼ同じで,特に,1986年以降の主流行型のAd41への推移は,全国的な傾向であったと考えられた。
文献
1)高木 賢二他:感染症誌,65,552-558,1991
2)Nishio O., et al: Microbiol. Immunol., 34,871-877,1990
愛媛県立衛生研究所 山下 育孝,大瀬戸 光明,服部 昌志,森 正俊,井上 博雄
年別の腸管アデノウイルス検出状況
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