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Vol.13 (1992/6[148])

<国内情報>
宮城県で開発された感染症サーベイランスグラフ表示システムの使用経験


 昭和56(1981)年度に開始された厚生省の結核・感染症サーベイランス事業は,全国2千4百余の定点病院,診療所の有意の諸先生方の熱意と関係者の努力に支えられ,世界に誇れる情報の収集・還元システムに発展してきた。平成4年1月からは厚生省を中心にしたネットワーク構成機器も,より高性能のものに一新され,この事業も新システムで稼働を開始している。

 情報の収集・還元に関しては順調に運用されているが,還元情報が毎週の患者数の数値一覧表とコメントのみであるため,本事業の最終目的である還元情報の各定点医療機関等への還元とその有効利用に苦慮している府県も多いと思われる。

 その主な理由の一つは,現システムが毎週得られた患者情報を蓄積し,そのデータベースから必要に応じて現在までの流行状況をグラフ表示等のわかりやすい形で出力する機能を持っていないことである。

 今回,宮城県保健環境センターにおいて開発され,汎用電算機で運用されていたサーベイランスグラフ表示プログラムをNEC9801シリーズパソコン用としてBASIC言語(コンパイラ)に書き換えたものの試用の機会が与えられ,また,大阪府の還元資料として有効活用させて頂いているので,その概要を報告する。

 本システムのデータは,週単位で情報収集されている18疾病について,厚生省統計情報部の磁気テープから抽出した1982年以後の定点当たりの都道府県別報告数,全国年齢階層別報告数および全国ブロック別報告数から成っており,最近の情報は,毎週オンラインで受信した全国還元情報表(表2101,2102,2103)からデータを追加している。

 このシステムの表示するグラフの種類は,

 (1)地図グラフ  (2)時系列グラフ

 (3)3次元グラフ (4)時系列予測グラフ

の4種類で構成されている。

 (1)地図グラフは全国地図およびブロック内府県地図上に最近4〜26週分の定点当たり患者数を棒グラフで示し,同一画面内に2年間の時系列グラフも表示する。一例として伝染性紅斑の全国ブロック別地図グラフを示したが,過去10年間の流行状況が一目瞭然であり,現在がどの様な状況下であるかは,言葉による何の解説も不要であろう。

 (2)時系列グラフは10年間の全データを瞬時にグラフ化し,各疾病の過去の流行状況の正確な把握に最適である。

 (3)3次元グラフも同様に10年間の全データを立体グラフで表示するが,流行の大きなうねりが見るものを圧倒する。

 (4)予測グラフもまた素晴らしく,自己回帰分析の手法を用いて純数学的に最長52週先までの予測曲線を描くので,周期性の認められる疾病ではその流行規模や時期の予測に有用な情報が得られる。紙面の関係で詳細は報告できないが,いずれのグラフも大変見事で,さらに上記の各グラフには多くの補助機能が与えられている。操作性についても,質問形式で次々聞いてくるので容易にグラフの変更が可能となっている。また,プログラムの知識があれば,ソースリストを書き換えることにより,県内データを読み込んで表示する県内版の表示システムへの改変も容易である。

 以上のごとく,このグラフ表示システムは実際に運用してみるとグラフのスケールの取り方など,プログラムに精通した者でなければ到底不可能な苦心の跡が随所に認められる非常に完成度の高い,精緻を極めた労作であることを知り,三浦氏を中心にこの開発に注がれた情熱とその英知を結集したソフトの完成に心からの敬意を表します。このパソコン用ソフトは,現在のサーベイランスシステムに欠けているグラフ表示機能を与え,誰にでもわかりやすい還元用グラフが容易に作成できるので,サーベイランス事業の進展のため,希望する他府県への供与を宮城県に切望し,報告とさせて頂きます。



大阪府立公衆衛生研究所
感染症サーベイランス解析評価小委員会


感染症サーベイランス報告数地図グラフ 〜’92年第16週





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