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Vol.13 (1992/7[149])

<国内情報>
青森県におけるライムボレリア検索−マダニ類からのボレリア分離と抗原性−


 青森県におけるライム病の実態を把握することを目的に,県内に棲息するマダニ類を対象にボレリア検索を行った。マダニの捕獲は1991年のネコ咬着マダニを除いて1990年5月下旬から6月下旬と1991年6月下旬から7月上旬の2回にわたって,県内5地域の標高20m〜200m地点における森林伐採跡地や林道の草地を対象に,ハタズリ法により行った。検査には捕獲マダニのうち,検査時まで生存していた240匹の成ダニ(ヤマトマダニIxodes ovatus: Io略188匹,シュルツェマダニI. persulcatus: Ip20匹,タネガタマダニI. nipponensis: In2匹,チマダニ属Haemaphysalis spp.: Hsp30匹)を用いた。マダニからの中腸等の採取およびボレリアの培養は佐藤ら,森の方法に従って行った。

 結果は表1に示すごとく,検査したすべての地域のダニからライムボレリア(Borrelia burgdorferi: B.b.略)類似の株が分離された。ネコ咬着由来の2株を含めた種別の分離率はIo26%(188匹中48匹),Ip15%(20匹中3匹)であった。In Hspからは分離されなかった。

 本県ではまだ患者は確認されていないが,B.b.の媒介種といわれるIpのみならず,本県での優占種であるIoも保有していることは患者がいつ発生してもおかしくない状況にあるといえる。

 分離ボレリアの抗原性を調べるため,1990年の分離株のうち,純培養できたIo由来2株,Ip由来2株と標準株B31の計5株をSDS-PAGE法で泳動し,蛋白構造を比較した。その結果,いずれの株も大局的には類似のパターンを示したが,詳細には株間で差異が認められるものもあった。そこで,この5株をマウスの腹腔へ免疫して抗マウス腹水を作製,各抗原と免疫ペルオキシダーゼ(IP)法により交差試験を行った。

 成績は表2に示すごとく,すべての分離株はB31とは抗原性が大きく異なるばかりではなく,分離株間でも抗原の多様性が示唆された。このことはIP法や蛍光抗体法に使用する抗原の選択には充分な注意が必要であることを示している。また,同抗体,抗原を用いたウエスタンブロット(WB)法では各抗体の多くはホモの株の31〜32KDa蛋白とは強く反応するのに対し,ヘテロの株の31〜32KDa蛋白とは反応は弱かった。すなわち,31〜32KDa蛋白は株特異的抗原であることを示している。

 一方,41KDa蛋白に対してはホモ,ヘテロに関係なく,いずれの抗体とも同じ程度で反応した。これは41KDa蛋白が群共通抗原であることを示している。

 以上のことから,41KDa蛋白を指標とするWB法は抗原の差異による抗原陽性者の見逃しの可能性が少ないと考えられる。現在,ヒト血清を用い本法の有用性について検討中である。



青森県環境保健センター 佐藤 允武


表1.青森県内に棲息するマダニからのボレリア分離
表2.免疫ペルオキシダーゼ(IP)反応による交差性





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