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Vol.13 (1992/7[149])

<国内情報>
福井県におけるライムボレリアの検索


 マダニ類のBorrelia burgdorferi(以下B.b.)保有は,ここ数年来北海道,東北,中部山岳等の比較的寒冷地域を中心に証明されてきた。

 福井県においてはいまだライム病の症例報告はないが,林業従事者の一部には抗体陽性者が知られている。そこで,今回一般に動植物の分布上で北方系と南方系の接点と考えられる北陸地方のマダニ類分布相の調査を行い,採集マダニ類からB.b.分離を試みたのでその概要を報告する。

1.マダニ類の分布状況

 野外からのマダニ類採集は1991年4〜7月にかけフランネル法で行い,14地点(図1)から未寄生期のマダニ類4属10種545個体の成虫を採集した。種名と略号を表1に示したが,ヤマトマダニ(Io)を含む多くの普通種はヒトの活動圏である山麓や比較的低い標高地で多く見られた。このうちIoは13/14地点から182個体(33.4%)の捕獲が見られ,最も多い採集数であった。これに対し,シュルツェマダニ(Ip)は6地点から32個体(5.9%)を得たが,採集地はいずれも県東部の900m以上の山岳地帯でのみ見出された。また,上記2種以外のものとしてHfIpとは逆に比較的標高の低い9地点で見られ,HkImは県南部の若狭地方の2地区でのみ得られた。Dtは全域にわたる3地点から9個体,また,Atは県南部から1個体を採集した。

2.捕獲マダニ類からのB.b.分離

 B.b.分離はAt:1,Dt:8,Hf:30,Hj:5,Hk:23,Hm:1,Im:56,Io:154およびIp:27の総計307個体についてBSKU細胞を用い32℃の条件で行った。その結果,IpIoからのみ分離が確認されたが(表1),Ioの分離は13のうち11地点で見られ,分離率は20.8%(32/154)であった。しかし,雌雄での分離率に著差は認められなかった。Ipの分離は6のうち2地点から得られたが,Io同様,雌雄による大差は見られず11.1%(3/27)であった。今調査からはこの2種以外の成虫127個体からの分離はすべて陰性であった。

3.分離株の同定

 分離株はB31由来モノクローナル抗体H9724とH5332を用いた蛍光抗体間接法にて同定した。分離株の大部分はH9724に対し均一性状が示されたが,H5332に対してはIp由来の2株にやや低い反応性が見られた。

 以上のように北陸地方でも病原体の浸淫が確認されたが,媒介の主役は既報と同様IoIpであった。しかし,成虫以外の若虫についても若干の分離を行った結果,Hfから1個体のB.b.分離を確認しており,中日本での疫学的な意味付けに注意が必要と思われる。



福井県衛生研究所   飯田 英侃,石畝 史,波田野 基一
福井医大・免疫寄生虫 高田 伸弘


Table 1. A list of ticks collected by flagging in Fukui Pref. in 1991
Fig. 1 A map of surveying points in Fukui Pref.





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