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Vol.14 (1993/2[156])

<国内情報>
皮膚爬行症並びに腸閉塞を起こす施尾線虫幼虫移行症の出現


 戦後に多数の患者をみた有棘顎口虫症がやっと終息を見ようとした1970年代後半,中国から輸入されたドジョウの踊り食いにより剛棘顎口虫症患者が出現し,更にグルメ嗜好から,1980年代にはそれまでには見られなかった日本産ドジョウによる日本顎口虫症,ヤマメによるドロレス顎口虫症の患者が出現した。

 一方,1964年に初めて日本で問題を提起したアニサキス症はその後の内視鏡検査技術によって患者の診断と治療が容易になったが,一向に無くならない日本人の生食嗜好から現在の日本では最も患者数の多い寄生虫疾患で,学会等での報告だけでも年間2,000例を下らない。

 この様な食品を介しての寄生虫病,中でも幼虫移行症は日本人の生食という食習慣並びに感染源となるものが人の食べ物であるという感染への必然性から患者数は減少しないし,新しい寄生虫病の出現にもつながっている。

 近年,皮膚爬行症の患者の中に旋尾線虫類には属するが,顎口虫幼虫によるものとは考えられない線虫幼虫による患者が見出されるようになり,Kagei(1991)によって初めて報告されたが,その後患者は表に見るようにつぎつぎと出現・報告され,その原因がホタルイカの生食によっているらしいことも突き止められた(Ando et al, 1992:感染率2.5%;岡沢ら,1992:3.3%;スケソウダラ並びにスルメイカからも見出されているが,内臓からのみの検出であるので,それからの感染は考えられない)。従って,患者発生も3月から6月までのホタルイカの漁獲シーズンに限局している。しかも本虫は単に皮膚爬行症を起こすにとどまらず,腸閉塞症をも起こす事が報告されるに至り(Kagei et al, 1992),ホタルイカの観賞用としての役割と,その後の生食というグルメ嗜好は,その流通機構の改善と共に富山県,石川県のホタルイカ産地以外の都市部での今後の感染者の出現が考えられる。

 文献

Kagei, N.(1991), Japn. J. Parasit., 40, 437-445

Kagei, N. et al.(1992), International J. Parasit., 22, 839-841

Ando, K. et al. (1992), Japn. J. Parasit., 41 (5), 384-389



予研寄生動物部 影井 昇


表.旋尾線虫幼虫の人体感染実態





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