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Vol.14 (1993/2[156])

<国内情報>
ハウスダスト中に検出される自由生活性アメーバ類についての調査


 現在の家屋は便利さや快適さを求めて様々に工夫されているが,その一方で一つの便利さが別の問題を生んでいるという点も指摘されている。例えば,気密性や保温性を重視した家屋で湿度に対する対策を怠るとカビなどの繁殖を許すことになり,それが単に不快なものと言うだけでなくアレルゲンとして健康に重大な被害をおよぼす恐れがある。この例に限らず自然界には状況によって有害であったり時として病原性すら示すような微生物が思わぬ所に存在するもので,大きく様変わりした今日の居住空間についてこのような観点からあらためて安全性を検証して行く必要があろう。

 ここで取り上げたアカンソアメーバ等の自由生活性アメーバ類もその一つで,近年話題となっているようにアメーバ性角膜炎の病原体であるばかりでなく,脳炎,あるいは髄膜脳炎を引き起こすことが知られている微生物である。本来,これらのアメーバは土壌や水中に棲息しているものであるが,塵埃などに混じって我々の住空間にも入り込んで来る可能性が充分考えられる。そこで,協力が得られた東京都および神奈川県下の一般家庭のうちでなんらかのペット動物を飼育している家庭を対象として,そのハウスダスト中のアメーバ類の調査を行った。

 結果は表にまとめたとおりであるが,調査した22検体のうちなんらかのアメーバ類が検出された家庭は18カ所(82%)にのぼり,非常に高い頻度でアメーバ類が検出されることが明らかとなった。そのうち,14カ所(全体の64%)からはアカンソアメーバが分離され,2種あるいはそれ以上のアメーバが分離された例も多数あった。アメーバ類の同定に関しては目下詳細に検討中であるが,アカンソアメーバに関してはその特徴からいずれも本属のうちの第2グループ(Pussard & Pons,1977;Protistol. 13:557-598)に属することが明らかとなっており,それらが潜在的に病原性を持つものとされていることから注意が必要であろう。一方,アメーバが検出されなかった例はわずか4カ所で,いずれもごく微量の沈渣しか回収できなかったものであることから再検討の余地があるものと考えている。

 わが国の畳部屋を基調とした生活様式では人を介して室内に土壌が運び込まれることはないものとして暮らしていると言ってよい。ところが,犬や猫などのある種のペット動物は飼育の仕方によっては比較的自由に家屋を出入りするため,外界の微生物を屋内に持ち込む原因となることが考えられよう。これが背景となってペット動物を飼育している家庭が調査の対象となったわけであるが,表でも明らかなように飼育動物の如何にかかわらず,いずれの家庭からもアメーバ類が検出された。今後はペットを飼育していない家庭にまで対象を広げて調査する必要があろうが,むしろ汚染経路は風などにより舞い込むものであるとする方が妥当と思われる。

一般に,土壌から分離されるアメーバ類はアカンソアメーバのみならずネグレリアやハルトマネラ属のアメーバが含まれているもので,今回の調査においてもハウスダストからそれらが高率に分離されている。これは土壌に混じって満遍なく運び込まれている実態を端的に表現しているものと解釈される。その中でアカンソアメーバ類に関しては特徴的な現象が認められた。すなわち,我々の経験によれば,土壌から分離されるアカンソアメーバのおよそ半数近くは病原性を持たない第1グループに属するものであるにもかかわらず,今回の調査では屋内からそれらがいっさい検査されていない点である。単に標本数が少ないことによる偏りである可能性も否定できないが,この結果は本属の第2グループに属するものが特に環境への順応性に富んだ特性を備えていることを表現しているものではないかと考えている。ひるがえって,その性質が角膜など更に異なった環境にも順応して結果的に病原体として振舞うことになってしまうのかも知れない。いずれにせよ,ハウスダスト中には高率にアメーバ類が検出されることから,今後はハウスダストの適正な掃除方法もあわせて考えて行く必要があろう。また,日々の暮らしにおいて,例えばアメーバ性角膜炎の危険因子であることが分かっているコンタクトレンズの管理には一層の注意が喚起されよう。



予研寄生動物部 遠藤 卓郎,八木田 健司
食品薬品安全センター 高鳥 浩介








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