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1977年以来,英国で報告された輸入マラリアの数は図1に示すように波状的に増加の傾向を示し,1991年には1945年以来最も高い患者数2,332名がみられている。しかも熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)感染者数は1,268名と前年より20%もアップしており,その92%はアフリカのサハラ砂漠で感染したものであった(アフリカで感染した1,385名のマラリア患者のうち85%が熱帯熱マラリア感染者であった)。そしてこれらの熱帯熱マラリア患者のうち11名が死亡している(その他に脾臓破裂で死亡した1名が剖検後に卵形マラリアと診断されている)。これらの死亡者はガーナ,ケニア,ナイジェリア,トーゴ,西アフリカでの感染であり,その原因はWHOの「1990年における世界のマラリア」の報告(WER,67,No.22&23,1992;本月報Vol.13,No.9,1992)にみられるようにこの地が極めて厳しいマラリアの流行地であるからである。
一方,アジアで感染した802名のマラリア原虫感染者は三日熱マラリア患者が最も多く94%(750名)を占め,熱帯熱マラリア患者はわずか5%(37名)であり,三日熱マラリア全患者数の85%以上はアジアで感染していることが分かった。
これらの患者の帰国後から発病するまでの時間は熱帯熱マラリア患者ではその89%が帰国1カ月以内に,そして99%が6カ月以内に発病しているが,三日熱マラリア患者では1カ月以内に発病したものはわずか25%で,4分の3の患者は帰国後2カ月以上たって発病していた。
熱帯熱マラリア原虫感染で死亡した11名を旅行のタイプでみると,海外から移住した者(2/462)は海外からの旅行者(2/268)や英国人の旅行者(3/204)よりも低く,最も高い死亡をみたのは専門あるいはビジネス業での旅行者であった(4/100)。死亡者の年齢は16〜19歳および45歳以上で,男性の死亡者が多かった(9:2)。
輸入マラリア患者の42%は予防を行っておらず,22%はその知識すらなかった。死亡した11名のうちの7例(64%)も予防していなかった。予防を行っていた者も1人はクロロキンとプログアニールを,次はクロロキンだけ,他は海外ではクロロキンとプログアニールを飲んでいたが帰国後は中止しており,最後の1名の予防に使用した薬剤は不明である。
全熱帯熱マラリア患者の37%は5日以内に診断されていたが,それに比べて死亡した者でも7人(64%)が5日以内に診断が下されており,診断の遅延は死亡の原因とはなっていない。
1970年代,熱帯熱マラリア患者の輸入例は次第に多くなっているが,死亡者は1977,1978,1982年に3%もあったものが1991年は1%以下になっている。この熱帯熱マラリア患者の死亡率の低下の理由は改善された予防法や素早い診断についての記事を読んだ旅行の時の仲間や開業医側のマラリアに関する知識の重要性が増したことによるものである。
(編集子加筆)このような輸入マラリアの問題は規模こそ小さいが,わが国でも同様の現象をみており,十分理解しておくべきである。
(CDSC,CDR,3,RNo.2,R25,1993)
Figure 1. Malaria cases imported into the UK
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