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二次症であるリュウマチ熱,急性糸球体腎炎をはじめ,敗血症等の重症A群レンサ球菌感染症は国内では非常にまれな疾患となった。一方,咽頭炎(一部しょう紅熱様症状を伴う)等の症状で医者を受診する小児のうち,A群レンサ球菌の検出される患者は流行年の影響を受け多少の変動はあるが大きくは変わっていない。17年間追跡をしている愛媛県松山市の小児科クリニックでの成績では,M12,M4,M1が主要流行菌型であり,6〜7年ごとに大きな検出ピークを作っている(表1)。T型別との関連を加えておくと,T1,T4の約95%がそれぞれM1,M4で型別されるのに対し,T12では約80%がM12,数%がM62であり,T3では1984,85年の菌株についてはM3であるが他はM3以外の菌型である。また,1989年からのT6菌株はM6と同定できない菌株である。これが上気道感染でのM抗原による菌型の推移である。
1980年代になり欧米ではリュウマチ熱,敗血症等の報告に加え,TSLS(Toxin Shock like Syndrome)が登場した。昨年になり日本でもこれらに関連するいくつかの型別を経験する機会を得た。一例は非常に急激な経過で毒素の症状が確立し死亡した44歳のTSLS患者からの分離菌株であり,T3,M3(3R),SPE(Streptococcal pyrogenic Exotoxin)型はA,D型(東京都衛研・五十嵐部長)であった。他はこれも非常に早い経過で敗血症にいたり死亡した6歳の患児である。菌株はT4,M4,SPEはB,C,D型であった。重症感染とSPEの関連については,すでに欧米では報告があり,SPE−Aさらにspe−A遺伝子保有との関連性が推定されている。1980年代,外国で報告されてきた重症感染症の多くはM3型であり,他に1型が多いとされている。1977〜1991年に旭川医大小児科で分離された二次症を伴った患者の菌株のM型とSPE型(京大・竹田教授)の関連を示した(表2)。A群レンサ球菌の病原性はM蛋白質によると考えられており,1,4型の頻度については,過去の流行菌型により説明できよう。しかし,3型と12型については両者には既往の流行状況に松山の流行に見るような差が予想される。さらに,SPE−Aの検出では,例数は少ないが3型のすべてにSPE−Aが検出されている一方,12型には検出されなかった。
感染症の成立のためのM蛋白とこれに対する人の抗体に重ねて,発症の形(二次症の発症,TSLS,しょう紅熱等)に関与する因子とそれに対する人の抗体等を考慮すべき事が示唆されていた。
東邦大学医学部公衆衛生学教室 村井 貞子
表1.しょう紅熱症状および咽頭炎の患児から分離されたA群レンサ球菌のM型の推移(徳丸クリニック,松山市,1975〜1991)
表2.合併症を伴った患児から分離されたA群レンサ球菌のM型とSPE型の関連(旭川医科大学小児科,1977〜1991)
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