|
1991(平成3)年9月と1992(平成4)年8月に,海外渡航1例および国内散発下痢症2例の合わせて3名の患者から,新しいO・K抗原組み合わせ(O8:K41)を有する腸炎ビブリオが分離されたので,その概要について報告する。
事例1:患者は男性(34歳)で,1991年9月19日から4日間タイへ旅行,その間に軽い下痢,嘔吐等の食中毒様症状を呈した。検疫所からの通報により,帰国後に保健所で検査の結果,腸炎ビブリオが分離された。原因食品として,タイで喫食した魚介類を含むバーベキューが疑われた。
事例2:患者は79歳の男性で,1992年8月7日に和歌山県の親戚宅の葬儀に出席し,翌日の帰りの車中で下痢,嘔吐の症状を訴え,名古屋市内の病院で投薬を受けた。2日後に静岡県内の病院で再受診し検便を行ったところ,腸炎ビブリオが分離された。原因食品は葬儀の際に出された仕出し弁当と推定された。
事例3:患者は男性(44歳)で,1992年8月27日にJR駅構内で購入したネギトロ弁当を喫食したところ,4〜5時間後から下痢,嘔吐,腹痛,発熱の症状を訴え,県内の病院に入院した。病院が行った便検査で腸炎ビブリオが分離された。
これらの分離菌株の諸性状を当センターで検査した結果,いずれも腸炎ビブリオの生化学的性状を備え,抗原型はO8:K41で,耐熱性溶血毒を産生する(神奈川現象陽性)株であった。
1988年に開催された第12回腸炎ビブリオの血清型別に関する委員会の記録(日本細菌学雑誌,44:573,1989)によれば,腸炎ビブリオの血清型はO抗原群13種類とK抗原68種類の組み合わせによって,現在79通りが示されている。この中で,K41はO群1に属しており,今回分離された腸炎ビブリオ3株の抗原型(O8:K41)は,この抗原表にない組み合わせであった。腸炎ビブリオのO抗原とK抗原の間には一定の関係がみられるため,血清型別に際しては,知り得たK抗原型からそれに該当するO抗原を推定するというK型別を重視した方法が用いられる傾向にある。O抗原の型別には手数を要するが,今回の事例はそれを行うことの必要性を示すものであった。
静岡県衛生環境センター 古屋 洋一,塩沢 寛治,窪田 勉,赤羽 荘資
|