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Vol.14 (1993/4[158])

<国内情報>
沖縄県における地域特殊感染症(糞線虫)対策事業実績(昭和62年〜平成4年度)


 従来,糞線虫の検査法として広く普及していた試験管内濾紙培養法は虫数の少ない保有者には不十分であることが指摘され(安里ら,1987),糞線虫の浸淫地では抗癌剤や免疫抑制剤が投与される糞線虫保有者にとっては播種性の重症糞線虫症の発生が懸念されていた。

 沖縄県では1987年以来,国庫補助による糞線虫の浸淫状況調査を行ってきたが,これまでにArakaki et al.(1988)が報告した普通寒天平板培地法は1回の検査で糞線虫保有者の90%が検出でき(糞便量3g,培養温度28℃,2日間の培養),糞線虫の検査としては現在のところ,最も優れた検査法であることが確認された。さらに同法を用いて沖縄県本島南部,中部,北部,宮古,八重山,本島南部周辺離島での浸淫状況調査を行い,いまだに注意を要する糞線虫の浸淫実態を把握することができたのでその概要を報告する。

 全調査地域の感染率は40歳未満の年齢層では男性1.6%,女性0.8%であった。若年齢層に少なく,性別では男性に多い傾向が全ての地域で認められた。40歳以上の男女の陽性率は男性が9.0〜21.4%(平均18.4%),女性では3.2〜11.6%(平均8.9%)を示し,男性が女性の2倍も高い陽性率であった(表1)。市町村別でみると最低1.0〜最高22.0%で,明らかな地域差が認められた(表2,図1)。

 今回の調査結果から,1930年前後の小学生の陽性率と現在の同一地域に居住する70歳前後の陽性率に大きな差が見られず,現在の糞線虫保有者の大部分は1950年代までに感染した人達がその後も自家感染を繰り返し,持ち続けてきたことが示唆される。従って,これまで糞線虫の浸淫は九州以南と認識されているが,1960年代までは北は北海道から本州,四国等にも分布していた事は明らかにされており,それらの地域でも当時の陽性者は現在でも糞線虫を保持していると考えられ,糞線虫の浸淫地だけではなく,その他の地域でも抗癌剤や免疫抑制剤が投与される患者に対しては糞線虫症にも考慮する必要性が示唆された。



沖縄県公害衛生研究所 安里 龍二


表1.沖縄県における糞線虫の性別,年齢別陽性率
表2.40歳以上でみた市町村,性別による陽性率
図1.40歳以上でみた市町村,性別陽性率





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