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Vol.14 (1993/5[159])

<特集>
輸入細菌感染症 1989〜1992


近年の海外渡航者の増加に伴って,海外で罹患した,いわゆる輸入感染症の増加がわが国の感染症の動向に大きな影響を与えている。1983年以降の動向についてはすでに解析した (本月報Vol.7,No.11,1986Vol.11,No.2,1990)。 本特集は1989〜92年の4年間のまとめである。

1989〜92年に地研・保健所から報告された腸管系病原細菌のうち,ヒト由来の検出総数は46,087で,うち9,401(20.4%)が輸入例であった。表1は輸入例の推移を病原体別に示したものである。1992年はほとんどの病原体で検出総数,輸入例数の減少がみられた。輸入例の比率が高いのはビブリオ属の菌に多く,プレシオモナス・シゲロイデス(87〜94%),エロモナスH/S(72〜89%),ビブリオ・コレレO1以外(68〜82%)などであった。コレラ菌は従来,ほとんどが輸入例で占められていたが,最近は毎年のように国内罹患例が報告されるようになった。1989年および1991年には国内での集団発生があったため,輸入例の割合はそれぞれ23%,65%と低かったが,90年および92年はそれぞれ80%,88%であった。腸炎ビブリオ,サルモネラ,カンピロバクターJ/Cなどは輸入例の検出数は多いものの,食中毒の主要原因菌として国内発生例が多いため輸入例の比率は相対的に低く,いずれも検出総数の20%以下にとどまった。病原大腸菌による腸炎も海外罹患率の高い疾患である。1986〜88年の輸入例の割合は64〜73%であったが,1989〜92年はやや減少し30〜64%であった。赤痢菌の輸入例は31〜59%で従来と同程度であった。チフス菌の輸入例の比率は1988年までは30%以下であったが,1989年38%,90年47%,91年42%と高率であった。1992年は検出総数76,輸入例数28で,ともにこれまでで最も少なかった。パラチフスA菌は従来輸入例の比率が高いとされていたが,1992年は28%にとどまった。

 1989〜92年に報告されたヒト由来病原細菌のうち,主なものについて,輸入例からの月別検出数を地研・保健所,検疫所別に図1に示した。病原体別の月別発生パターンは両機関においてほぼ一致しており,いずれの病原体も検出のピークは3〜4月と8〜9月であった。この時期に海外渡航者数の多いことの反映と思われる。なお,1990年3月の地研・保健所のサルモネラのピークは,海外修学旅行の高校生の間に多くの罹患者が発生したためである。ビブリオ属の細菌はいずれも検疫所での検出が地研・保健所での輸入例検出数を上まわった。

 1992年に地研・保健所および都市立伝染病院で分離された赤痢菌のうち,輸入例の比率の高かったのは志賀赤痢菌およびボイド赤痢菌,次いでフレクスナー赤痢菌であった。ソンネ赤痢菌は国内発生が多かったため輸入例の比率は地研・保健所で40%,都市立伝染病院で56.6%であった(表2)。

 病原大腸菌で輸入例の比率が高かったのは組織侵入性大腸菌,次いで毒素原性大腸菌であった(表3)。腸管出血性大腸菌については1991年から情報の収集を始め,1992年末までに地研・保健所から150の検出数が報告され,うち輸入例は1例であった。

 1992年の輸入細菌感染症について,疾患別に推定感染地を示した(図2)。いずれの疾患も東南アジアでの罹患が多く,コレラの69%,腸チフスおよび赤痢の約40%,パラチフスAおよび病原大腸菌による下痢症の約25%に達した。インド亜大陸での罹患はパラチフスA63%,病原大腸菌による下痢症47%,赤痢41%,腸チフス32%,コレラ18%であった。なお,1991年以降コレラ流行地となった南米での罹患者は,輸入コレラの10%を占めた。



表1.病原細菌検出数からみた輸入細菌感染症の年次推移(地研・保健所集計,ヒト由来)
図1.病原細菌検出数からみた輸入細菌感染症の月別・年次別発生状況(ヒト由来),1989〜1992年
表2.輸入例から分離された赤痢菌の菌種別うちわけ,1992年
表3.輸入例から分離された病原大腸菌のうちわけ,1992年
図2.輸入細菌感染症の推定感染地,1992年





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