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1979〜85年の7年間に地研・保健所から報告されたヒト由来病原細菌の検出総数は130,884例で,うち14,557例(11%)が輸入例であった。表1は病原体別に1983〜85年の輸入例の推移を示したものであるが,いずれの年も輸入例の99%が腸管系病原体で占められていた。
輸入例の比率が高いのはビブリオ属の菌に多く,検疫伝染病であるコレラ菌(54〜95%)をはじめとして,プレシオモナス・シゲロイデス(88〜95%),コレラ菌O1以外(59〜87%),ビブリオ・フルビアリス(25〜55%)などにおいて高率に分離された。
1985年には,輸入例総数2,399例中,腸管系病原体2,389例に対しその他は10例(0.4%)にすぎない。この内訳はりん菌5,肺炎桿菌2,マラリア2,その他1例であった。
病原大腸菌による腸炎も海外罹患率の高い疾患であるが,1985年に分離された輸入例の内訳は,EIEC41%(13/32),ETEC48%(447/932),EPEC52%(263/502),その他51%(53/103),平均49%で各群間に大きな差はなかった。
1985年に分離された赤痢菌の輸入例は志賀赤痢菌80%(8/10),フレクスナー赤痢菌45%(74/164),ボイド赤痢菌77%(23/30),ソンネ赤痢菌35%(117/336)で,例年どおり志賀赤痢菌とボイド赤痢菌の比率が高かった。
サルモネラ,腸炎ビブリオ,カンピロバクターJ/Cなどは輸入例の絶対数は多いが,いずれも食中毒の主要原因菌として国内発生例数も多いため,輸入例の比率は相対的に低くなっている。
図1に主な腸管系病原細菌の月別発生状況を示した。いずれの疾患も輸入例発生のピークは3月,8月を中心とした2峰性を示しているが,近年の海外旅行が長期の休暇を利用していることの反映であろう。
コレラと腸チフスの輸入例について,1983〜85年の発生数を罹患推定国別に示した(表2)。疾患によって,また,年度によって変動がみられることから,輸入例は当該国の疾病流行状況を反映しているものと思われる。
なお,都市立伝染病院での輸入事例については,
本誌51号・特集(1984年5月),
78号,
79号・解説(1986年8月,9月)を参照して下さい。
表1.病原細菌検出数からみた輸入細菌感染症の年次推移(地研・保健所検出分 ヒト由来)
図1.病原細菌検出数からみた輸入細菌感染症の月別・年次別発生状況(地研・保健所検出分,ヒト由来)
表2.コレラおよび輸入腸チフスの推定感染国(年次別発生数)
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