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Vol.5 (1984/5[051])

<特集>
輸入感染性腸炎


 近年の海外輸入例の増加はわが国の急性感染性腸炎の動向にもっとも大きな影響を与えている。ここでは感染性腸炎研究会に参加する全国都市立14伝染病院に収容された1983年の輸入感染性腸炎の集計成績を紹介する。

 輸入例からの分離菌:1983年に都市立14病院に収容された各種感染性腸炎(腸チフス・パラチフスを含む)の患者−保菌者1735例中,何らかの病原体(ウイルス・原虫を含む)が分離された症例は1305例,このうち輸入例は415例(32%)である。菌陽性例のうち輸入例の占める割合は近年ますます上昇し,特に細菌性赤痢では赤痢症例の半数を超えている。Shigellaの菌型別ではS. sonneiよりもS. flexneriにおいて輸入例の割合が高い。国内には存在せず,ほとんどが輸入株であったS. dysenteriaeS. boydiiが近年少数ではあるが外国由来が明らかでない症例から分離されている。腸チフス・パラチフスでは輸入例の占める割合はS. typhiが29%,S. paratyphi Aが24%と,細菌性赤痢ほど高くない。1981,82年とも輸入例からは分離されたことのないS. paratyphi Bが,1983年にはじめて2例に分離された。腸・パラ以外のSalmonellaの輸入例の割合は他の病原菌と比べてむしろ低い。病原大腸菌は特に旅行者下痢症の起因菌として知られ,全国衛生研究所集計では輸入例が21%を占めているが,病院検査では報告数が少ない。Campylobacter jejunicoliは成人,小児を問わず高頻度に分離され,輸入例の場合,ShigellaSalmonellaなどと混合感染として分離されることが多い。本来輸入感染症と考えられるV. cholerae O1やEntamoeba hystolyticaの輸入例の割合がそれぞれ48%,29%であったことは国内定着を示唆するものとみられる(表1)。

 輸入例の推定感染国:感染を受けたことが特定可能であった国名の順位および分離菌の動向は,1981年以来ほとんど変わっていない。Shigellaの分離症例は特にインド・ネパール・パキスタンという組合せの旅行者に多く,またS. typhiS. paratyphi Aはインドネシア,韓国に,V. parahaemV. cholerae O1はフィリピンに,C. jejunicoliはインド・ネパール・パキスタンに多い(表2)。

 混合感染例:近年,感染症腸炎の症例,とくに輸入例から2種以上の病原菌が分離されることが多く,同一症例からShigella3種とC. jejuniの計4種が分離された例もある。このほか3種分離7例,2種分離例が56例など,1983年の混合感染例は菌陽性例中12%を示した。とくにインド・ネパール・パキスタンに多い(表3)。

 性・年齢と入院月:菌陽性輸入例は20歳代がとくに多く,男性は女性のほぼ2倍で,また入院は8月ついで3,1月である。これは学生を中心とする若い男性に東南アジア方面への旅行者が多いことを裏付けている(図1)。

 輸入株の薬剤耐性:耐性頻度を国内株と比較するとV. paraheamを除いてShigellaSalmonella,EPECのいずれも輸入株の耐性頻度は低い。しかし,輸入株においても耐性頻度に上昇の傾向がみられている(表4)。

 全国都市立14伝染病院:市立札幌病院南ヶ丘分院,東京都立豊島病院,東京都立駒込病院,東京都立墨東病院,東京都立荏原病院,川崎市立川崎病院,横浜市立万治病院,名古屋市立名古屋東市民病院,京都市立病院,大阪市立桃山病院,神戸市立中央市民病院,広島市立舟入病院,北九州市立朝日ヶ丘病院,福岡市立こども病院感染症センター



表1.輸入例からの分離菌 都市立伝染病院1983年
表2.輸入例(415例)からの分離菌と推定感染国 都市立伝染病院1983年
表3.混合感染例の内訳 都市立伝染病院1983年
図1.輸入感染性腸炎(菌陽性例415例)都市立伝染病院1983年
表4.輸入株の耐性頻度(CP,TC,KM,ABPC,NA5剤について) 都市立伝染病院1983年





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