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1.月別・感染国別集計
近年,海外旅行者の増加にともなって,感染症とくに腸管感染症の輸入例が激増している。大阪府(大阪市を除く)の住民に発生した輸入腸管感染症例につき調査を続けているが,ここではその一部として1983年の成績を紹介する。
病原体陽性の例数は163件(陽性率45.2%)であり,前年(132件,41.8%)よりやや増加している。病原菌種別の検出頻度は毒素原性大腸菌,サルモネラ,腸炎ビブリオ,赤痢菌の順に多くみられた。また,複数の病原菌を検出した症例が46例(5種類2例,4種類2例,3種類9例,2種類33例)あり,全陽性例の28%を占めており,症状から病原菌種を推定することは困難であることを示している(表1)。ほとんどの病原菌種の検出例数は7〜8月にピークを示すが,海外旅行者数の季節的な偏りに一致して検査例数が増加することによると考えられる(表1)。
NAGビブリオ,腸炎ビブリオは旅行者に海産魚介類を提供する地域での感染例が多くみられ,赤痢菌はインド,タイでの,サルモネラはフィリピン,タイでの感染例が多くみられるなど,旅行地域での飲食物の種類及び衛生状態を反映していると考えられた(表2)。
2.赤痢菌およびサルモネラの血清型と薬剤耐性
1983年に大阪府で検出した赤痢症例は66例(集団発生2例(32症例),散発2例,輸入症例30例,輸入症例からの二次感染1例,輸入症例からの感染が強く疑われたもの1例)であり,輸入症例の占める割合は症例数で45.5%,フォーカス数で86.7%であった。
輸入症例から検出された赤痢菌は31株(2菌型同時検出1例)であったが,このうち26株(83.9%)が薬剤耐性株であり,多剤耐性菌も多くみられた(表3)。
サルモネラの年間検出数は324株(43血清型)であった。このうち輸入症例から分離された株数は64株(19.8%)であったが,血清型では29種類(67.0%)を占めており,国内例にみられない血清型も認められ,大阪府におけるサルモネラの血清型分布に与える影響は大きい。また,輸入症例から検出したサルモネラのうち,薬剤耐性株は14株(21.9%)であった(表4)。
大阪府立公衆衛生研究所 宮田 義人,田口 真澄,原田 七寛
大阪空港検疫所 市来 重光,橋本 智,阿部 久夫
表1.月別病原菌検出状況(1983年)
表2.病原菌と感染国の関係(1983年)
表3.赤痢菌の血清型と薬剤耐性(1983年)
表4.サルモネラの血清型と薬剤耐性(1983年)
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