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Vol.14 (1993/5[159])

<国内情報>
日本における人肝蛭症感染の現状


 肝蛭は反芻動物,特に山羊や羊,牛の寄生虫であり,感染による肉質並びに搾乳量の低下は酪農業界における経済的損失の原因になる。その他多くの家畜,野獣にも寄生し,人には比較的まれにしか感染しないが,感染によって肝臓や胆管が破壊され,濃厚感染の場合は死を招くことがある。

 WHOはその総説(本号外国情報で紹介)で過去30年間の試料を基に世界の人肝蛭症感染の現状を紹介しているが,我が国では症例はわずか5例しかなかったと述べている。ところが,著者の知るところでは近年やたらと我が国での本症患者の報告が目につき,疑問を抱き,機会あるごとに学会抄録,論文等をメモしておいたが,それらの資料を基に我が国の人肝蛭症感染の現状を解析したものである。従って,我が国で現在までに発症したすべての人肝蛭症症例を網羅するものではなく,未発表,また著者の目にとまっていないものなどかなりあり得る事は考えに入れておいて頂きたい。

 まず,人肝蛭症の報告は表1に見られるように第二次世界大戦以前には数える程しか見られず,著者はわずか2例の報告にしか接していない。その後も1960年までは同様に散発的であったが,1961年頃からやや患者の増加が見られ,1986年以降は年間ほぼ10例以上の報告を見ている。この原因は戦後のヨーロッパあるいはアメリカから入ってきたサラダ等でのパセリ等の生野菜を食べる習慣が増したことと,レバ刺し等にして牛の肝臓を食べる者が増えたことによるものと考えられる。日本産牛における肝蛭の感染率は今でも酪農家にとっては最大の悩みであり,決して感染源が無くなったわけではない。

 従って,以上の食習慣の改変は表2に見るように年齢的にも加齢に伴っての感染率の上昇を示し,やや女性での感染者が多い。また,職業別での感染を見ると農業従事者が圧倒的に多く,職業が不明なものを除くと61.3%が農業従事者である。その他若干名ずつが種々の職業(公務員,会社員,大工等)で感染が見られている。

 以上のことから人肝蛭症は我が国でも決して少ない寄生虫病ではなく,今後はその欧米化した食習慣によってさらに増加するであろう事が伺われるのである。



予研寄生動物部 影井 昇


表1.わが国における年度別肝蛭症報告患者数
表2.年齢別肝蛭感染者数





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