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鳥類住血吸虫のセルカリアによる皮膚炎に関しては,1928年Cortによってアメリカ・ミシガン州のDouglas湖畔でその原因がモノアラガイの一種Lymnaea stagnalisで発育するTrichobilharzia ocellataのセルカリアによるものであることが初めて報告されて以来,世界各地で多数の患者と多数の種類の感染源となるセルカリアが報告され,1940年頃にはほぼその全貌が明らかにされた。現在でも,別項外国情報に示すように,時折患者発生を見ている。
我が国では1920年頃から,島根県の宍道湖畔のある限定された地域の農民間に発生する原因不明の皮膚炎があり,湖岸病と呼ばれていた。1948年,田部により,この湖岸病は淡水産の巻貝ヒラマキモドキに寄生するムクドリ住血吸虫Gigantobilharzia sturniaeのセルカリアが皮膚から侵入することによって起こることが初めてわかり,報告された。
その後,我が国には各地に「水かぶれ」,「泥かぶれ」,「稲かぶれ」,「かゆいかゆい病」と呼ばれる湖岸病同様の症例がかなり存在することがわかり,その原因種も表のような6種類の鳥類住血吸虫のセルカリアによることが報告されたが,感染源となるセルカリアの種名が決定されていない地区も含めると,ほぼ日本全国からセルカリア性皮膚炎の患者が報告されている。ただ,近年,モノアラガイが農薬その他の影響によってほとんど姿を消し,代わって,汚染された環境でも比較的生活力の強いヒメモノアラガイの生息が主流をなしてきたため,1965年以降はモノアラガイを中間宿主とするTrichobilharzia ocellata,T.physellaeならびにCercaria okiensis,C.mieensis(後2者は共に分類学上の検討課題が残されている)による皮膚炎の報告は全くなくなり,現在はヒメモノアラガイを中間宿主とするT.brevisと,ヒラマキモドキを中間宿主とするG.sturniaeの2種による皮膚炎の報告が多く見られている。
セルカリア性皮膚炎は患者が水に入った後,早いものでは10分後に自覚症状を認め,遅いものでも当日中に発疹,掻痒感が見られる。掻痒感は3〜7日程続き,夜間この痒みのため就寝できないものもある。また,中には水疱形成を来すものも見られる。発疹は約10日程で軽度の色素沈着を残して治癒するが,一部には硬結を残して経過が長引くものも見られる。
諸外国におけるセルカリア性皮膚炎がレジャーなどの水遊びの中で発生するのに比べて,我が国のそれは田植え時に発生することが多く,「水田性皮膚炎(Paddy field dermatitis)」の名で呼ばれることがある。
これらの皮膚炎患者の発生の初期には,その原因が農薬,肥料によるもの,もしくは工場等の廃液による公害であるとして,住民側から問題提起がなされ,その後紆余曲折を経て,やっと鳥類の住血吸虫のセルカリアによることが明らかにされることが多く,行政側の本症に対する認識が有るか無いかは,問題解決のために極めて重要なことである。
予研寄生動物部 影井 昇
日本における住血吸虫性皮膚炎の分布と宿主
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