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Vol.14 (1993/8[162])

<国内情報>
広島県で分離されたChlamydia pneumoniaeの性状について


 Chlamydia pneumoniaeC.pn)の分離培養は極めて困難であり,本邦では,分離,維持継代された株は少なく,その性状について不明な時が多い。1991年6月,広島県内在住の急性気管支炎の患者から分離したC.pn株(YK−41)について電子顕微鏡による基本小体(Elementary body;EB)の観察,精製したEB蛋白の電気泳動による解析,およびイムノブロッティングによる共通抗原性などの解析を行った。供試株のC.pnはYK−41株と,Washington Research Foundationから分与されたprototypeであるTW−183株とAR−39株を用い,対照としてC.psittaciはBudgerigar株とCal10株,C.trachomatisはL2株を用いた。

 その結果,C.pnは洋梨状のEBが特徴の一つとされているが,YK−41株はC.psittaciC.trachomatisと同様に丸い形態のEBであった。

 SDS−ポリアクリルアミドゲルによるEB蛋白の解析では,供試した3株のC.pnのペプチドパターンにかなりの類似性が認められた。TW−183株とAR−39株では98kDaにバンドが強く認識されたが,YK−41株ではこのバンドは極めて薄いものであった。YK−41株は200kDa以上にバンドが一つ認められたが,TW−183株とAR−39株ではこれが認められなかった。また,42kDaから50kDaの間に,YK−41株に特有のバンドが2,3認められた。C.pnの3株すべてに主要外膜蛋白(Major outer membrane protein;MOMP)と呼ばれる蛋白が39.5kDaに認められた。

 患者の回復期血清を用いたWestern blotによる解析では,クラミジア属に共通のバンドがMOMPの39.5kDaと73kDaとに確認された。これまで,C.pnに特異的な蛋白は98kDaに存在するといわれていたが,この蛋白に加えて43kDa,46kDa,51kDa,53kDaおよび60kDaにもC.pnに特異的と思われる蛋白の存在が明らかとなった。

 C.pnの抗原性を比較する目的で,YK−41株が分離された患者の急性期と回復期血清について,抗原にYK−41株とTW−183株を用いた場合のMicro−IF法による抗体価を比較した。患者血清は抗原にYK−41株を用いた場合に2〜4倍高い抗体価を示した。一方,保存血清50例についてYK−41株とTW−183株を抗原として用いた場合には,その抗体価にはほとんど差はみられず,YK−41株とTW−183株とに抗原性の違いは認められなかった。YK−41株を抗原とした場合,患者血清が高い抗体価を示したのはおそらくhomologousなためと思われる。これまでC.pnにはバイオタイプや血清タイプはないといわれていたが,最近,ノルウェーで分離された株はTW−183株の抗原性と異なると報告された。広島で分離された株は,TW−183株やAR−39株とはEBの形態,ペプチドパターンが若干異なるものの,抗原性に大きな違いは認められなかった。

 今後,各地域からのC.pn分離株が蓄積し,株間の検討が加えられれば,複数の血清型の存在が明らかになる可能性も考えられる。



広島県保健環境センター
金本 康生,妹尾 正登,野田 雅博,高尾 信一,徳本 靜代





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