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Vol.14 (1993/9[163])

<国内情報>
麻疹ゼラチン粒子凝集法(PA法)の開発


 麻疹ワクチン接種効果の評価や流行予測事業等の疫学調査では,多数の血清サンプルを同時に扱うために,手技が簡単であることから麻疹HI抗体価測定法が一般に行われてきた。しかし,アフリカミドリザル血球が入手困難となっているため,一般の研究室や検査室では測定に支障を来している。また,現在WHOによる麻疹のEPI(予防接種拡大計画)において,世界規模で麻疹ワクチン接種計画が進められているが,アフリカミドリザル血球は発展途上国でも入手困難である。一方,中和法,ELISA法は手技が複雑で長時間を要すること,また,標準化をしにくいなどの欠点もある。そこで,これらに代わる方法として,ATL,HIV−1等の診断に利用されているゼラチン粒子凝集法(PA法)を応用し,麻疹ウイルスのPA抗原の試作を行った。

 麻疹ウイルス蛋白に特異的なモノクローナル抗体について,HI,中和,PAの比較を行った(表1)。HI法では抗HA抗体を検出するのみであるが,PA法では抗HA抗体と抗F抗体の両者を検出した。ウイルス粒子内部蛋白質に対する抗P,抗NP,抗M抗体には反応しなかった。

 0〜60歳まで73名のヒト血清について,PA法とHI法を比較した(表2)。HI法で陰性血清23例のうち17例(74%)がPA法で陽性となった。HI法で陽性であった50例はPA法でも全例陽性であった。

 PA法とHI法における陽性率の年齢別比較(図1)をみると,HI法では,年長児または成人においてHI価の低下が認められた。一方,PA法では,10歳以上の年齢でも100%の陽性率を示した。上述のように,PA抗体中には抗F抗体も含まれているので,ここでみられた長期間にわたる抗体陽性率は抗F抗体が寄与していることを示唆した。また,PA法と中和法の比較では,PA価32倍以下,中和価4倍以下を陰性とすると両方で完全に一致した。

 麻疹ウイルスに対する感染防御抗体としては,主にウイルス粒子表面のHA,F蛋白質に対する抗体が重要であることが知られている。HI法では抗HA抗体が検出されるだけで抗F抗体は検出されず,また感度も低い。PA法は中和法に平行し,抗HA抗体と抗F抗体の両者を検出し得ることが明確に示された。また,HI法,中和法に較べて原理,手技がより簡単,かつ短時間で試験が行える点,血清疫学のためにすぐれた方法と言えよう。



予研ウイルス製剤部 佐藤 威


表1.麻疹ウイルスのモノクローナル抗体の性状
表2.PA法とHI法との比較
図1.PAとHI抗体の年齢別陽性率





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