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Vol.14 (1993/9[163])

<国内情報>
SRSVによる集団胃腸炎の2事例−長野県


 1992年6月に県内のA町の成人精薄養護施設と保育所で急性胃腸炎の集団発生があった。この2事例は,成人と幼児とで年齢に違いはあったものの,発生日が近似しており,同一地区で500mと近距離の施設で発生していたため,共通感染経路が考えられ,疫学的究明が必要になった。以下この概要について報告する。

 表1より,養護施設(K)事例は寮生,職員を合わせて183名中52名が発症した。保育所(T)事例はK事例より3日遅れて患者が発生し,保育園児40名中19名が発症した。患者はK事例が6月20日午後から6月22日午後にかけて,T事例が6月23日午前から6月24日午前中にかけて発生し,各々一峰性のピークを示す流行状況であった。患者の症状はK事例が発熱,嘔吐,下痢が主であったのに対して,T事例は嘔吐,腹痛,発熱が主で,症状の訴えに差があった(表2)。

 細菌検索は保健所で実施したが陰性であった。細胞培養法によるウイルス検索は陰性であったが,電顕法により,K事例は患者糞便5検体中2検体から,直径約35nmの音更様粒子が観察された。T事例は患者糞便7検体中2検体から,K事例と同様なSRSV粒子が観察された。免疫電顕法は各事例の粒子数の多い検体を濃縮精製して抗原として使用し,K事例は患者8名中8名のペア血清に,T事例は患者4名中4名のペア血清に有意抗体上昇が認められた。また,両事例のウイルス様粒子を相互に交換して交差免疫電顕法を行ったが,各々に有意抗体上昇が認められたことから,双方の粒子間の抗原性状は類似しているものと思われた。

 保健所で実施した疫学調査によると,豆腐,肉と野菜は各々同一業者から納入されていたものの,感染源と推定される原因食品は特定されなかった。ただし,保育園児患者2名の母親がK寮の職員であり,また,K事例の発生日前日に町主催の会議があり,両施設の職員が同席していた等の人的交流があった。

 以上より,今回の2事例は感染源や感染経路は究明されなかったが,抗原的に類似したSRSVにより発生したものと思われる。両事例とも,衛生的に自分の身の回りの処理をするのが難しい人がいる施設で発生した点,6月の温暖期に発生した点は注目される。



長野県衛生公害研究所 西沢 修一,宮坂 たつ子,小野 諭子
長野県飯田保健所 長瀬 博(現松本保健所) 藤本 和子


表1.県内に集団発生した急性胃腸炎二事例の概要
表2.二事例の臨床症状





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