HOME 目次 記事一覧 索引 操作方法 上へ 前へ 次へ

Vol.14 (1993/9[163])

<国内情報>
わが国における紅斑熱群リケッチア症の現状


 紅斑熱群リケッチア症とはダニによって媒介されるリケッチア感染症であり,米国のロッキー山紅斑熱,地中海沿岸諸国におけるボタン熱などが代表とされ,その他世界的に広く分布しているものである。近年,アフリカ,中国,タイなどにおいても存在が確認された。わが国においては1984年に徳島県阿南市において地元の開業医,馬原文彦氏により発見,報告され,馬原氏は,これを日本紅斑熱と命名することを提唱した。

 病原体の分離は1986年,徳島大学の内田孝宏氏により高知県室戸市の患者から行われ,Rickettsia japonicaと命名することを提唱した。病原体分離は,その後も徳島県,兵庫県,千葉県,宮崎県,島根県,鹿児島県等において患者,野ネズミから行われた。媒介動物としては当然,ダニ類が考えられているが,現在のところ不明であり,これらを含めて疫学的には解決されるべき問題を多く残している。

 わが国における紅斑熱群リケッチア症は臨床的には発熱,発疹,刺し口などの所見が認められ,現在,広域に多発している恙虫病に酷似していて鑑別は困難である。両者の鑑別は血清反応,リケッチア分離等によって行われる。

 次に,わが国における紅斑熱群リケッチア症の発生状況について述べる。ここに掲げた表は,厚生省希少感染症診断技術向上事業の研修会においてまとめられたものである。この表からも明らかなように,1984年から1992年の間に3例の輸入症例を含めて112名の患者が報告されている。症例が報告された県は千葉県以西の県であり,そのうちの大部分の発生は徳島県の阿南市と,これに近接している高知県の室戸市に集中している。その他,千葉,宮崎,島根,兵庫等の県も発生が続いていることから,常在地であると考えられる。

 前にも述べたように,わが国の紅斑熱群リケッチア症は恙虫病に酷似しているので,血清反応の普及に伴って西日本の恙虫病多発地帯において,さらに確認される可能性がある。季節的には4月から10月にかけて発生しており,恙虫病の発生ピークと少しかさなっている。今までのところ,幸いにも死亡症例の報告はない。その他,注意すべき点としては,南アフリカ,ネパール,マレーシアなどの外国からの輸入症例が確認されたことである。



予研感染症疫学部 坪井 義昌


わが国における紅斑熱群リケッチア症例数 1984〜1992





前へ 次へ
copyright
IASR