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第2研究年度の平成4年11月,全衛生研究所71機関の参加の下で,糞便由来病原細菌10菌種の一斉同定検査が行われた。集められた結果について行った精度管理調査成績の概要は表の通りであり,以下はそれらについての若干の説明である。
OO1:d(−)の菌であったため戸惑ったと思われるが,O9,Viを検査してなおSalmonella sp.では行政的に表現不足。菌名:腸チフス菌→チフス菌。
OO2:パラチフスA菌は法定伝染病菌であり,行政的な重みがある。H抗原の検査なくパラチフス菌とするのは同定不足。菌名:パラチフスA→パラチフスA菌。
OO3:コレラ菌の菌名にはO1の付記が望ましい。Vibrio cholerae non-O1との意識的な区別が必要。さらに近時のO139への認識も加わる。Vibrio cholerae non-O1という同定は使用血清の品質によるか。血清類の管理が望まれる。コレラへの行政対応にはCTの確認が必要であり,CT試験は県レベル衛研では必須。
OO4:腸管出血性大腸菌(及びEHEC)の名称使用は38%,部炉毒素産生性大腸菌(及びVTEC)の名称使用は31%(註1)。O111とVTの検出があって単にE.coliとするのは表現不足。さらにO抗原も毒素の検査もないE.coliは病原菌としての意識不足。
OO5:全成績に問題なし。KPないしTDHは疫学,病原性マーカーとして通常検査されている。
OO6:Shigella boydiiは血清検査における誤判定か。試薬等内部精度管理に配慮を要す。
Pseudomonas aeruginosaは簡易同定キットの成績のみからの誤診とみうける。検体が純培養菌であったことが仇になり,分離培養段階からの一連の基礎性状の情報不足による誤判定。簡易キットに頼りすぎは危険。
OO7:O4,H:i:1,2を検出していてサルモネラO4群では表現不十分。一方,同じサルモネラO4群でもH抗原の検査のないのはつっこみ不足。
OO8:O124大腸菌を単にE.coliまたは病原大腸菌とするのは表現不足(註1)。細胞侵入能(または因子)検査の一般化が望まれる。Pseudomonas aeruginosaの飛び込みは原因不明。
OO9:菌の非発育は遺憾(5機関)。実行委員会での回収試験は2カ月後も陽性であった。
O10:食中毒由来であろうから,疫学・病原性マーカーのコアグラーゼ型やエンテロトキシン型の検査が求められる。
註1:今回の供試菌のうち,No.4とNo.8の成績で,使用された菌名にバラエティがみられた。行政検査の成績においては,的確な表現が,できれば全国的に共通して使用されることが望ましい。この意味から上記の問題について日本細菌学会用語委員会浜田茂幸委員長に意見を求めた。用語委員長からは,用語集*の不備を認めながら大略次の返事が送られた。(1) No.4の菌名に使用されている2種類の名称を統一するのは困難。ただし現在未収載のVTEC(および和名)は次回改訂時にその収載が考慮されよう。(2)No.8の菌名については,冗長さは否めないが,可及的用語収載名を尊重されたい。*日本細菌学会微生物学用語集
註2:このたびの制度管理調査では,別に求めたアンケート多数の有益な意見を頂いている。これらの詳細はすべて記録されているので,次の機会に反映されるはずである。
実行委員会委員
島田 俊雄,中村 明子(国立予研)
工藤 泰雄,太田 建爾(東京都衛研)
山井 志朗,渡辺 祐子,黒木 俊郎(神奈川県衛研)
小林 一寛(大阪府公衛研)
主任研究者 衛藤 繁男(神奈川県衛研)
実行委員会委員長 大友 信也(大分県衛環研)
微生物系精度管理調査成績集計概要
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