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滋賀県立衛生環境センターでは,エンテロウイルス感染症が疑われる小児を対象に,ウイルス検出検査を毎月実施している。この調査で,ポリオウイルス3型野生株が分離された。
ウイルスは咽頭ぬぐい液からHeLaとRD細胞で分離された。プール血清を用いてポリオウイルス3型と同定後,PCR−RFLP,塩基配列解析および単クローン抗体の各方法で型内鑑別をした結果,本分離ウイルスはポリオウイルス3型の野生株であることが判明した。
ポリオウイルスが分離された被検者の背景を表1に示した。臨床診断名はインフルエンザ様疾患であったが,臨床症状と分離されたポリオウイルスとの関係は不明である。
わが国でのポリオウイルス野生株の分離は1984年の愛知県でのポリオウイルス1型の報告以来,9年ぶりである。国内には,ポリオウイルス野生株は常在しないと考えられているが,今後国際的な交流が盛んになることから,国内に野生株が持ち込まれる可能性は常にあると考えられる。本例は検体採取直前に海外渡航歴があるものの,国内で感染した可能性も否定できない。わが国ではポリオが制圧されたとはいえ,ポリオウイルスに対するサーベイランスは今後とも必要であると考える。
また,1992年9〜12月にかけてオランダで,ワクチン非接種者あるいは不完全接種者からのポリオウイルス3型野生株の分離例がある。さらに,カナダでもこのオランダの流行に関連した可能性のある集団からポリオウイルス3型野生株が分離されている
(本月報Vol.14,No.10,1993)。
この集団は,ワクチン接種に反対の宗派を含み,ワクチン非接種あるいは不完全接種者の間でウイルスが伝播されていることを示している。また,本例も,ワクチンは1回のみの接種であったことを考えると,ポリオウイルスが制圧された国であっても,免疫の不完全な者のポリオウイルスに対する免疫度を,一定レベル以上に維持することが重要であることを示しているといえる。
なお,2〜8月の滋賀県におけるサーベイランスで,ポリオウイルス3型は分離されておらず,本ウイルスは地域に広がらなかったと考えられる。
滋賀県立衛生環境センター 横田 陽子,武甕 好美
予研ウイルス第二部 米山 徹夫,藤原 卓,萩原 昭夫
表1.ポリオウイルス3型野生株が分離された被検者の背景
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