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1993年の前半期において,つつが虫による死亡例が2例報告された。
第1例は島根県から報告されたもので,患者は84歳の女性である。発熱と全身疲労,衰弱で5月17日入院,発疹はなかったが,左膝内側部に刺し口を認めた。つつが虫病を疑ってミノマイシンを使用したが,5月23日に播種性血管内凝固(DIC)と多臓器不全(MOF)をきたして死亡した。確定診断は5月21日の患者血清を用いて間接蛍光抗体法(IF)により行われた。
第2例は秋田県から報告されたもので,患者は72歳の男性(農業),発熱,発疹があり6月17日に入院した。入院時にすでにDICとMOFがあり,抗生物質が投与されたが,翌18日に死亡した。確定診断は6月17日の患者血清を用いて免疫ペルオキシダーゼ法(IP)により行われた。
つつが虫病の治療にはテトラサイクリン等の抗生物質が有効であるので,早期診断,早期治療が重要である。これら2例の場合は症状が進行して,末期症状での入院となり,抗生物質の効果が及ばなかったと思われるケースである。
最近のつつが虫病による死亡例としては,1988年に3例(秋田,山形,岐阜で各1例),1990年に3例(埼玉,京都,鹿児島で各1例),1991年長野で1例,1992年に2例(秋田,群馬で各1例)が報告されている。
前述の2例を含めて,これら最近のつつが虫病死亡例について共通して言えることは,1)患者が高齢であること,2)何らかの原因により受診,治療が遅れたこと,などである。つつが虫病による死亡率が高齢者に高いことは,特効薬である抗生物質が出現する前の,いわゆる古典型つつが虫病時代における新潟,山形等の統計が示すところである。
現在,わが国のつつが虫病患者の高齢化傾向とあわせて考えると,今後とも注目すべき問題である。
予研感染症疫学部 坪井 義昌
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