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1993年夏,福岡県においてワクチン株が原因と考えられるポリオ患者が発生したので,その概要について報告する。
患者発生から届け出まで:患者は北九州市に隣接するA町在住の18歳の男性で,7月8日風邪様症状を呈して近くの病院を受診した。11日に両下肢脱力が出現,進行し,起立,階段昇降も不能となったため,北九州市内の総合病院に入院した。その後の血清検査でポリオが疑われ,8月26日付で保健所に届け出があった。
ウイルス検査:届け出当日に,患者の髄液(7月15日採取)と便(8月26日採取)がウイルス検査のため北九州市環境衛生研究所に送付された。BGM,HeLa,RD-18S,Vero細胞に接種したところ,髄液では2代継代後もCPE陰性であったが,便ではすべての細胞で,初代でCPE陽性であった。この分離株は,エンテロウイルス抗血清を用いた中和試験により,ポリオウイルス3型と同定され,さらに国立予研ウイルス第二部における鑑別試験の結果,ワクチン株であることが判明した。また,民間の検査機関が行ったポリオについての血清検査で,7月15日と26日の血清に3型のCF抗体が確認された(CF抗体価1:32倍)。
感染経路について:母親の話では,患者の幼少時にポリオの生ワクチンを受けた記憶がないとのことである。したがってワクチン未接種である可能性が高い。また,患者本人は海外渡航歴もないことから,海外での感染は否定される。分離株がワクチン株であったこと,および患者が在住する地域のポリオ生ワクチンの投与が5月であったことを考慮すると,感染源としては,生ワクチンを投与された小児またはその排泄物である可能性が高い。しかし,患者の聴き取り調査では,ワクチン投与された小児と接種するような機会はなく,また,職業上も感染機会はないとのことで,感染経路については不明であった。
なお患者は12月現在も右下肢脱力の後遺症がある。
今回のケースはワクチン投与後の副反応ではないことから,きわめて珍しい症例である。わが国の集団としてのポリオワクチンの接種率および抗体保有率は依然として高い水準にあるとはいえ,個体レベルで抗体陰性者が存在する以上,今回のような例は今後も発生する可能性がある。今後ともポリオについての注意深い監視が必要である。
北九州市環境衛生研究所 中村 悦子,仮屋園 弘志,下原 悦子
九州厚生年金病院神経内科 植木 和紀
予研ウイルス第二部 米山 徹夫,藤原 卓,萩原 昭夫
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