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Vol.15 (1994/2[168])

<外国情報>
狂犬病,1993−ニューヨーク


 1993年8月,ニューヨークで39年ぶりにヒトの狂犬病が報告された。11歳の少女で,7月5日左手の痛みから始まり,徐々に痛みが上肢へ上行し,筋肉のけいれん,脱水,幻覚などの症状が出現した。さらに発熱,恐水症,唾液燕下困難等が出現,呼吸困難,不整脈で7月12日死亡した。剖検で,中脳,橋,延髄,ネグリ体の脳炎所見が顕著であった。髄液からの狂犬病ウイルスの分離および抗体検出は陰性であったが,CDCで,脳幹,中脳,およびプルキンエ細胞での蛍光抗体法により狂犬病の診断が確定した。ホルマリン固定組織よりRNAを抽出し,逆転写およびPCR法で遺伝子を増幅し,塩基配列を調べた結果,このウイルスは食虫コウモリに感染しているウイルスの変異体と同定された。患者は,カスキル山の森林地帯に住んでおり,外国旅行歴はない。コウモリとの接触歴もなく,周辺にコウモリの巣も見つからなかった。犬や馬などのペットが飼われていたが,最近狂犬病の症状で死んだものはなかった。

 米国では1980年以来16例のヒト狂犬病が報告されているが,うち7例は外国で感染したもので,9例はウイルスに対する暴露歴が明らかでない。また,9例は死後初めて狂犬病と診断されており,6例は,狂犬病とは診断されずに死亡した患者からの角膜移植によるヒトからヒトへの伝播である。

 このように,動物との接触歴が明らかでない場合には狂犬病の診断は容易ではないが,髄液,血液,唾液,脳生検によりある程度は可能である。これは必ずしも予後を変えるものではないが,早期診断はヒトからヒトへの伝播防御に重要である。

 食虫コウモリによる狂犬病は1980年以来6例目であるが,うちコウモリによる咬傷が明確な例は1例にすぎない。

(CDC,MMWR,42,41,799,1993)






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