HOME 目次 記事一覧 索引 操作方法 上へ 前へ 次へ

Vol.15 (1994/5[171])

<特集>
アデノウイルス感染症 1982〜1993


 アデノウイルスは47の血清型が知られており,かつ多彩な臨床症状を起こす。本特集は3つの主要症状(上気道炎,角・結膜炎,胃腸炎)別に厚生省サーベイランス開始以後12年間のアデノウイルス検出報告を解析した。あわせて,これらの症状別にウイルス検出報告全体に占めるアデノウイルスの割合を示した。

 1982〜1993年にヒトから検出されたアデノウイルスは17,032(1994年4月21日現在報告数)で(表1),このうち81%が地方衛生研究所からの報告である。過半数は厚生省感染症サーベイランスのための検査で検出された。臨床症状として51%に上気道炎,33%に角・結膜炎,18%に胃腸炎,6.4%に下気道炎・肺炎が報告された(二つ以上の臨床症状が報告された例を含む)。アデノウイルスの57%は鼻咽喉材料,27%は眼ぬぐい液,17%は便,3.8%は尿から検出された(異なる検体から同一の型が検出された例を含む)。

 上気道炎報告例の鼻咽喉材料から検出されたウイルスの総数は39,240で,アデノウイルスはその17%(6,722)を占めた。そのほか51%がインフルエンザウイルス,23%がエンテロウイルスであった。

 上記鼻咽喉由来アデノウイルスはすべて培養細胞で分離され,99%が血清型別されている。型別検出数は3型が最も多く,2型,1型,5型,6型,4型の順であった(図1a)。3型検出数は年による変動が大きく,1984年,87年,90年がピークであった(図2a)。3型検出例の年齢は4,5歳をピークに0〜4歳49%,5〜9歳42%で,2型は1歳をピークに0〜4歳81%であった(図3a)。1型,5型,6型は2型同様0〜4歳が多かった。4型は0〜4歳から38%,5〜9歳から49%が検出された。月別検出数は3型は7〜9月,2,1型は4〜6月が多かった(表2)。

 角・結膜炎報告例の眼ぬぐい液から検出されたウイルスの総数は3,766で,アデノウイルスはその91%(3,428)を占めた。そのほか4.9%がエンテロウイルス,4.0%が単純ヘルペスウイルスであった。

 上記眼由来のアデノウイルスは2例を除くすべてが培養細胞で分離され,98%が血清型別されている。型別検出数は3型,4型,8型が多く,次に37型,19型の順であった(図1b)。3型の年別検出数は1983年,87年,91年がピークで,4型の年別検出数は1984年,92年がピークであった(図2b)。3型検出例の年齢は9歳以下48%,30代23%,20代13%で,4型は30代33%,9歳以下17%,20代16%であった(図3b)。8型,37型,19型は4型同様成人からの検出が多数を占めた。月別検出数は3,4,8型ともに7〜9月が多かった(表2)。

 3型は小児が主である咽頭結膜熱患者からの検出が多いのに対し,4型は成人が主である流行性角結膜炎患者からの検出が多い。このため,この2つの型の検出例の年齢構成に差がみられる。

 胃腸炎報告例の便から検出されたウイルスの総数は15,212で,アデノウイルスはその11%(1,605)を占めた。そのほか61%がロタウイルス,18%がエンテロウイルス,9.6%が小型球形下痢ウイルスであった。

 上記便由来のアデノウイルスの40%は電顕,ELISA,ラテックス凝集反応で直接検出され(非培養),型別されなかった(図1c)が,そのかなりの部分をエンテリックアデノの40,41型が占めると考えられる (本月報Vol. 13,bU参照)。 40,41型と血清型別されたのは3.6%である。残る56%はすべて培養細胞で分離され,その97%が型別されており,2型,3型,1型,5型の順に多かった(図1c)。年齢が報告された例の60%は0〜1歳であった。

 過去10年以上にわたって病原微生物検出情報に集積されたデータは膨大なものになった。これを解析することによって,日本におけるアデノウイルスの動向(血清型別,症状別,月別,年齢別検出)がかなり明らかになったと考えられる。



表1.年別アデノウイルス検出数,1982〜1993年
図1.アデノウイルスの型別割合,1982〜1993年
図2.アデノウイルス年別検出数の推移,1982〜1993年
図3.アデノウイルス検出例の年齢分布,1982〜1993年
表2.月別アデノウイルス検出数,1982〜1993年





前へ 次へ
copyright
IASR