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1993(平成5)年6月〜8月にかけて,千葉県野田市でA型肝炎患者の集団発生があり,疫学調査の結果から,市内の寿司店での食品を介した感染ではないかと推測されたので報告する。
患者数は野田市医師会,保健所の調査で終息時までに151名(うち130名は医師会で確認,21名は管外から報告のあった患者)で,このうち当保健所管内7医療機関に入院していた103名(IgM HA抗体陽性者)の患者全員を調査対象とした。
調査項目は,患者基本情報,症状,発症日,喫食状況(発症前50日にさかのぼって),参加行事,海外渡航歴,飲料水,患者,家族周辺での肝炎患者の有無等とした。
調査結果:103名中88名(85%)が感染源と思われる寿司店の食品を店,出前,土産用の寿司で喫食していたが,特定の貝類,寿司ネタ等ナマモノでは感染源としての共通のものはなかった。喫食日の判明した63名については6月1日〜25日の間に喫食していたが,最も多いのは6月5日(土)17名,次いで6日(日)の10名,8日(火)9名であった。
発症日の判明しているのは69名で,6月23日〜8月11日の間に発症しており,そのピークは7月前半であった(図)。8月11日に発病した患者は,寿司店での喫食がなく,また他の患者からも発症日が離れていること,この患者の母親が寿司店利用の患者であったことから母親からの二次感染を推定した。喫食日と発症日の両方が判明した患者42日についての潜伏期は13〜43日(平均29.2日)であった。
感染源として推定された寿司店の環境調査では,営業用の飲料水は市営水道を使用しており,7月13日の上水必須10項目の検査では基準値を満たしていた。残留塩素は0.4〜1ppmと確認されている。当該寿司店は主に家族4人で営業しており,6月20日店主,23日長男,7月8日に妻が発症し,管外の医療機関に入院していた。寿司店家族では最近海外への旅行はなかった。家族で唯一未発症の次男は抗体検査の結果陰性であった。営業は7月17日から3ヵ月間自粛したが,再開時には店舗の塩素剤による消毒の実施,冷蔵,冷凍庫内の食品の廃棄を依頼し,さらに,浄化槽の定期的な点検,指導も衛生教育と合わせて行った。
保健所が最初に集団発生の情報を得たのは,寿司店が既に感染源と推定される時期を過ぎた7月12日であり,患者発生のピークから1ヵ月も経過した時点であったことから,特定の感染源,感染経路の割り出しは困難であった。ただ,何らかの要因で寿司店家族が先行して感染し,発症,潜伏期を経て集団発生に波及したものと推定され,寿司店家族の糞便による食品のA型肝炎ウイルス汚染の可能性が最も高い因子と考えられた。
なお,市内外の他の寿司店および生鮮食品取扱業者が関与した患者の発生報告はなく,二次感染による患者も1名で,今回の集団感染は一過性に推移し9月中旬には終息した。
千葉県野田保健所 池田 昇志,土屋 純子,森 茂,堀部 治男
千葉県衛生研究所 市村 博
表 患者の年齢別発生状況
図 発症日が判明した者の日別発症者数
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