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1993年12月,岐阜市の7歳女児(小学1年)が腹痛,吐き気,発熱を訴えて発症後,意識消失,痙攣等の神経症状を示した後3病日(約48時間後)に死亡した。診断名は敗血症性ショックとされたが,2病日の便からShigella flexneri 2aが検出され,死因には本菌が関与したと思われた。本事例はかつての「疫痢」を想起させる経過を辿っており,近年経験しなかった事例なので概要を報告する。なお,患者の死亡2日後になって,看病に当たっていた母親(患児と同居),祖母(同別居)がともに発熱,下痢を発症し,検便の結果両人からもS. flexeri 2aが検出された。
T.事例概要
初発患者:7歳女(小学1年生)
二次患者:母親(同居)女児に付添い看病にあたる
二次患者:祖母(別居)接触は女児の発病当日からで,汚物の始末を行う
@発症前の行動歴
本人,家族等の海外渡航歴はない。発症前日(1993年12月18日)まで,体調の異常はみられず,平常通り登校していた。
A発症当日以降の状況
月/日 時刻等
12/19 午 後 祖父母宅で昼食を摂った後,自家用車で帰路につく。車中で腹痛,吐気,口渇を訴える。帰宅後,軽度の発熱,頭痛,嘔吐をみる。風邪と判断し,早めに就寝させる。
12/20 午 前 引き続き,前日の症状を呈するとともに下痢,意識の軽度の混濁をみたため,近所の開業医へ受診,抗生剤(Cephem系)を含む点滴を受ける。
午 後 意識消失,痙攣をみたため小児専門病院へ転送入院。直ちに,昇圧等の緊急処置を受ける。
12/21 午 前 引き続き,対症療法を受ける。
午 後 20:00敗血症性ショック(診断名)により死亡。
U.解剖所見
脳:正常
肺:鬱血,水腫
心臓:心筋に軽度の浮腫
腸:結腸,直腸粘膜に炎症,剥脱
V.感染経路等の検索
喫食したものの詳細な把握は困難であるが,家庭内で調理したものがほとんどである。他の家族の検便を実施したが,結果はすべて陰性で,また,女児の接触者からも菌の検出はされず,感染源の特定はできなかった。
W.分離株の薬剤感受性試験結果(KB法)
薬 剤 女 児 母 親 祖 母
ABPC R R R
CEZ M S M S M S
KM I I I
TC R R R
CP R R R
NFLX S S S
R:耐性,S:感受性,MS:やや感受性,I:中間
岐阜市衛生試験所 島倉 康彦,広瀬 照子
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