|
ヘルパンギーナは毎年夏に乳幼児に多くみられる急性熱性疾患で,咽頭から軟口蓋にかけての水疱を特徴とする。主にコクサッキーウイルスA群(CA)によって起こる。
感染症サーベイランス情報によると,1993年の流行は1982年の事業開始以来最小の規模であった。患者発生数は6月第2週から増加しはじめ,7月第3週をピークとして9月末に終息した。一定点医療機関当たりの年間患者発生数はこれまでの最低値を示し,全国平均は29.87人であった。地域別に1991,92年と比較すると(図1),1993年は特に,北海道,東北および九州−沖縄で流行の規模が小さく,ピークも遅い傾向がみられた。前年比は,全国では0.90で,1を超えたのは関東−甲信越,東海−北陸,近畿であった。
1993年に病原微生物検出情報へ報告されたヘルパンギーナ症例(診断名または症状にヘルパンギーナと記載されていたもの)からのウイルス検出数は408であった(表1)。ヘルパンギーナの病因となるCAの各型はそれぞれ異なる間隔で流行しており,毎年主要な型の組み合わせが替わる。1993年の全国の検出数では,CA4が30%,CA6が15%,CA5が9%を占めたが,地域別にまとめると,東北ではCA10,関東−甲信越,東海−北陸,中国−四国ではCA4,近畿ではCA6,九州−沖縄ではCA5がそれぞれ第1位であった(表2)。
ヘルパンギーナ症例から検出されたウイルスの月別推移を図2に示した。CA4,CA6ともに5月から報告され始め,7月にピークを示して10月に終息した。CA5は6月にピークを示した。コクサッキーB群(CB),アデノウイルスも夏に検出されるが,単純ヘルペスウイルスは年間を通じて検出されるのが特徴である。
1993年のヘルパンギーナ患者の年齢分布は,感染症サーベイランス情報によると例年通りで,0歳が11%,1歳が24%,2歳が19%,3歳が15%,4歳が13%,5〜9歳が14%,10歳以上が4%であった。検出されたウイルスを年齢別にみると,3,4歳でCAの占める割合が約80%と最も高く,0歳および5歳以上で低かった(図3)。
ヘルパンギーナ症例からのCAの検出は,鼻咽喉材料からのマウスによる分離が主である。CA4,CA6,CA5のそれぞれ96%(116/121),95%(56/59),94%(34/36)が鼻咽喉材料から,残りは便材料から検出された。CA4の1例は両方から検出された。また,それぞれ82%(99/121),80%(47/59),86%(31/36)がマウスにより分離され,残りは培養細胞で分離された。CA6の1例が両方で分離された。
1993年のCA4,CA6,CA5の総検出数はそれぞれ177,82,63で,CA4は中規模の,その他の型は小規模の流行であった。そのうちの68%,72%,57%がヘルパンギーナと診断されている。それ以外の診断名としては,手足口病と感染性胃腸炎が主で,CA4では4例と2例,CA6では各2例,CA5では手足口病のみ11例であった。CB5,エコー(E)11型,E30の各1例から,ヘルパンギーナと髄膜炎の併発が報告されている。
速報:感染症サーベイランス情報によると,1994年第25週(6月19日〜6月25日)における1定点医療機関当たりヘルパンギーナ患者発生数の全国平均は1.32人で,1992年並みの立ち上がりである。地域別にみると例年通り,九州−沖縄で早い時期に増加している。1994年に入ってからは,ヘルパンギーナの病因となるCAでは,6月20日現在,CA5が1株,CA6が1株,いずれも佐賀県で,CA10が横浜市と京都市で各1株検出されている。
図1.地域別ヘルパンギーナ患者発生数の推移 1991-1993年(感染症サーベイランス情報)
図2.ヘルパンギーナ症例からの月別検出数 1993年
表1.ヘルパンギーナ症例からの年別ウイルス検出数 1982-1993年(1994年6月20日現在)
表2.ヘルパンギーナ症例からの地域別ウイルス検出数 1993年
図3.ヘルパンギーナ症例の年齢別ウイルス検出状況 1993年
|