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Vol.15 (1994/7[173])

<国内情報>
1993年の神奈川県におけるヘルパンギーナからのウイルス分離状況


1993年の神奈川県域でのヘルパンギーナ患者報告数は,2,493人でほぼ例年なみの流行であった。患者は5月から増加し始め,7月をピークとし10月には終息した。

 ヘルパンギーナは小児の間に流行し,主に発熱,口内炎,咽頭痛を伴う夏かぜ様疾患であり,臨床的に判断しやすい疾病であるといわれていた。しかし,今回の流行では例年に比べ臨床症状が軽く,同じく夏に流行が見られる手足口病との臨床上の区別が難しい例が多かったとの報告があった。

 ウイルスの分離においても,例年に比べ哺乳マウスでの麻痺が弱い例,たとえば麻痺の出現がウイルス接種6日以降と通常より遅い,あるいは接種マウス3匹中1〜2匹にしか麻痺が起こらない等の傾向がみられた。

 ヘルパンギーナ患者からのウイルス分離−同定検査は,哺乳マウスに患者検体(咽頭拭い液または糞便)を接種し,麻痺の現れたマウスの筋組織からウイルス液を調製し,予研から供与されている抗体(免疫腹水)を用いて補体結合反応により行っている。

 当所では昨年(1993)170件について分離を試み,82件からウイルスを分離した。主な分離ウイルスはコクサッキーA(CA)10:38株(46%),CA4:16株(20%),CA6:14株(17%)で,これら3者で分離ウイルス全体の83%を占めた。その他少数ではあるがCA5,CA8,CA2も分離された。

 しかし,これら分離ウイルスの同定において初代麻痺マウスからのウイルス液では,ウイルス量が不十分なためか同定不能となる例が82件中27件あった。これら27件については,初代ウイルス液を再び哺乳マウスに継代し作製したウイルス液を用いて同定した結果,22件が同定可能となった。そのうち18件はCA10であった。

 哺乳マウスでの麻痺は通常検体接種後3〜5日目にみられるが,今回の検査ではウイルスの分離された82件中39件で接種後6日以降(6〜10日)に麻痺が認められた。この麻痺の遅れはCA10で最も顕著であり,今回同定されたCA10 38件中32件に認められた。

 麻痺が遅れたCA10では2代目継代マウスでの麻痺の出現もほぼ同じか,せいぜい1日早くなる程度であった。CA10の麻痺出現の遅れは接種ウイルス量によるものではなく,今回分離されたウイルスに特徴的なものと思われた。



神奈川県衛生研究所 近藤 真規子,今井 光信
聖ヨゼフ病院 武谷 広子


ヘルパンギーナ患者からのウイルス分離と哺乳マウスでの麻痺出現状況





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