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Vol.15 (1994/8[174])

<特集>
腸炎ビブリオ 1987〜1993


 細菌性食中毒の中で常に首位の座を占めてきた腸炎ビブリオによる食中毒が減少傾向にある。

 1980〜1993年の14年間に発生した腸炎ビブリオによる食中毒事件は4,063患者総数116,838で,うち5名が死亡した。同期間に発生した細菌性食中毒事件の総数は9,037で,うち腸炎ビブリオによる食中毒は平均45%を占めたことになる。しかし,1992年は腸炎ビブリオによる食中毒は99件,患者数2,845,細菌性食中毒に占める腸炎ビブリオの割合は25%で,いずれもこれまでの最低を記録した。1993年は110件,患者数3,124で,前年をやや上まわったものの,引き続き減少傾向を示した(表1)。

 1987〜1993年に地方衛生研究所・保健所から報告されたヒト由来腸炎ビブリオの月別検出状況を図1に示した。この期間の検出総数は9,803で,うち1,289(13%)が輸入例であった。腸炎ビブリオは8月または9月にピークをもつ夏季多発のパターンを繰り返す。1989年以降1993年までの年間検出数は1,999,1,927,1,457,569,682と推移し,1992年および1993年の検出数の大幅な減少が注目された。とくに1992年の検出数はこれまでの最低であった。

 病原微生物検出情報に速報として報告された腸炎ビブリオ集団発生のうち,患者数10人以上の事件について,年次別,発生規模別に事件数を示した(表2)。1987〜93年の7年間に発生した533件のうち438件(82%)が患者数10〜49名の小規模発生であった。患者数50名以上の事件についてみると,1989〜1991年は全体の21〜22%を占めたが,1992年および1993年はそれぞれ14%,17%であった。1992年および1993年は発生件数のみならず,大規模発生も減少したことが明らかである。

 1987〜93年に地研・保健所から報告された533件の集団発生について,腸炎ビブリオ血清型の検出頻度を比べた。表3は各年の上位5位までに検出された血清型について年次別に事件数で示したものである。1992年を除いていずれの年もO4:K8が最も高頻度に検出された。次いでO4:K4,O1:K56,O4:K63,O4:K12等が検出されており,これらが最近みられる主要血清型であることがうかがえる。わが国の腸炎ビブリオ食中毒の発生状況とその変遷を知るのに,腸炎ビブリオの血清型は有用な手段と考えられる。

 1987〜1993年に厚生省に報告された腸炎ビブリオによる食中毒事件1,670件について原因食品別に発生状況をみると,魚介類がトップで,魚介類加工品と合わせて31%を占めた。複合調理品が8.9%,乳肉,穀類,野菜およびそれらの加工品は合わせて2.5%にすぎない。その他が26%,原因食を特定できない事件が32%あった。

 食中毒発生の原因施設は飲食店が40%で最も多く,次いで旅館17%,仕出し屋16%,家庭4.6%,販売店3.5%等であった。学校および病院での発生は少なく,それぞれ0.5%,0.2%であった。

 家庭,学校および病院等における腸炎ビブリオによる食中毒の減少は,食品の衛生管理が徹底したことを示すもので,その結果,腸炎ビブリオ発生の減少をもたらしたものと思われる。



図1.月別腸炎ビブリオ検出状況(1987〜1993年)−地研・保健所集計−
表1.腸炎ビブリオ食中毒発生状況(1980年〜1993年)
表2.腸炎ビブリオ食中毒の規模別,年次別事件数
表3.腸炎ビブリオ食中毒原因菌の上位血清型(事件数)





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