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感染症サーベイランス患者情報によれば,京都市では例年ヘルパンギーナと手足口病患者はいずれも第20週あたりから増加し始め,第30週前後にピークを形成している。
これら疾患患者からのコクサッキーウイルスA群の検出例も,患者発生数の増加に呼応しているが,今年(1994年)は,これら疾患患者から,コクサッキーウイルスA10型(CA10)の検出例のみが目だっているので報告する。
感染症サーベイランスの3検査定点で採取された咽頭ぬぐい液等の検体を,4種の培養細胞(FL,RD-18S,WI-38,Vero)と哺乳マウスに接種し,ウイルス検出を行った。この中で,哺乳マウスを定型的に発症させ,また,初代あるいは2代目のRD-18SでCPEを示した検体について,発症した哺乳マウスを常法により処理した抗原と,国立予研より分与された各型の抗CAマウス免疫腹水を用いて,補体結合反応によりCAの型別を行った。
その結果,5月17日のヘルパンギーナ患者から初めて検出されたCA10は,その後も5〜6月に断続的に,ヘルパンギーナ患者および手足口病患者各2人の咽頭ぬぐい液から検出された。患者は5歳の1人を除けば,すべて1歳前後であった。共通して発熱があったほか,ヘルパンギーナ患者では上気道炎も2人に見られ,また,下気道炎や口内炎の症状が記録されている患者もあった。発熱体温は38〜39℃が多かった。
京都盆地北部の定点と,東山を隔てた山科盆地の定点双方の患者からCA10が検出されているので,流行は市内の広範囲に及んでいると判断される。しかし,検出数がさほど多くないことや,患者に関する疫学情報欄に散発例という記載が多いことから,現在のところ京都市内では大規模な流行には至っていないと思われる。
なお,例年この時期,京都市ではCA群の複数の型が並行して検出されるが,今年は現在のところ,他の型はまったく検出されていない。特に,患者情報によれば,手足口病の患者発生数は少なくないにもかかわらず,この疾病の主病因ウイルスであるCA16やエンテロウイルス71型はまったく検出されず,病因ウイルスとしてはマイナーなCA10のみが検出されるという,いささか特異な状況となっている。
7月に入ってヘルパンギーナおよび手足口病の患者発生数の増加とともに,CA群と思われるウイルス株の検出も引き続いているので,CA群の今後の動向に対し監視を続けたいと考えている。
京都市衛生公害研究所微生物部門
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