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Vol.15 (1994/8[174])

<国内情報>
手足口病からのエンテロウイルス71型難中和性株の分離−宮崎県


 ほぼ3年ぶりに1993年6月上旬から宮崎県で流行した手足口病はエンテロウイルス71型(EV71)を主としたコクサッキーウイルスA16型(CA16)との混合流行であった。このうちCA16は標準株に対する抗血清で中和されたが,EV71ではほとんどの株が標準株に対する抗血清に対してbreak through現象を起こしたので,このEV71難中和性株の分離状況等について報告する。

 分離は,咽頭ぬぐい液と水疱内容物を材料として,Vero,MA104,RD-18SおよびHeLa細胞を用い,96穴マイクロプレートで行った。また,一部は乳のみマウス(ddYマウス,生後24時間以内)による分離も実施した。

 分離株はVero,MA104で初代接種後早いもので2〜3日目から明瞭なCPEを示したが,RD-18S,HeLaは感受性を示さなかった。また,乳のみマウスでは材料接種後平均6日目でようやく後肢の麻痺を認める程度であった。材料中のウイルスの力価が低い可能性も考え,Vero細胞で分離したウイルスを再度乳のみマウスへ接種し継代したが,麻痺の程度は通常のコクサッキーA群に比べ弱く,分離株の乳のみマウスでの増殖性は細胞に比べ相当低いものと思われた。

 同定に際し,分離株は抗血清で中和後4〜5日目頃からbreak through現象を起こし,このbreak through現象がEV71とCA16との混合感染による可能性も考えられた。このため,水疱内容物から分離され,かつ難中和を示した代表株3株について次のような操作を行った。まず,宿主細胞成分による難中和性要因を除く目的でウイルスをフルオロカーボン処理した後(名取克郎:臨床とウイルス,Vol. 2,bP,1974),EV71およびCA16の各抗血清でそれぞれ中和し,中和を免れたウイルスを増殖後3回プラック純化を行い,クローニングされたウイルスのそれぞれについて再度中和試験を行った。その結果,CA16に対する抗血清ではまったく中和されず,EV71に対する抗血清で同様にbreak throughを起こしたため,この現象がCA16との混合感染による可能性は否定された。

 この結果から,難中和を示したウイルスをEV71と同定したが,手足口病患者からのペア血清が入手できなかったため,抗体側からの確認はできなかった。

 EV71がbreak throughを起こす,あるいは難中和を示す現象は本月報においても過去に報告されており (Vol. 11,bW,1990Vol. 14,10,1993), 今回宮崎県分離株においても同様な現象がみられた。今後もEV71に限らず,過去の分離株で作製した抗血清にたいして難中和を示すウイルスが増えてくると思われ,サーベイランス事業あるいは血清疫学等の正確なデータを得るためには,最近の流行ウイルス株およびそれに対する抗血清の確保が必要になってくると思われる。



宮崎県衛生環境研究所
吉野 修司,三吉 康七郎,山本 正悟





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