HOME 目次 記事一覧 索引 操作方法 上へ 前へ 次へ

Vol.15 (1994/8[174])

<国内情報>
宮城県内の日本脳炎ワクチン被接種者に認められた高値の中和抗体価について


 1993年度の伝染病流行予測調査事業の日本脳炎(以下日脳)感受性調査を実施していたところ,1962年に本事業を開始して以来初めて経験する高値の中和抗体(以下NT)価が,ワクチン被接種者に認められたので,以下に概要を紹介する。

 NTは,10日齢ニワトリ胚初代培養細胞上のプラーク減少法で測定した。ウイルスはJaGAr01株を使用した。検体は,IS市の各年齢層から得た207例の健常人血清を用いた。

 表1には感受性調査結果を示した。中和抗体陽性者(抗体価1:12以上)は57名/207名(28%)で,このうち日脳ワクチン接種歴のあるもの15名/57名(26%),接種期日が明らかなものは4〜9歳群の13名であった。このワクチン接種歴の明瞭な13名のNT価を表2に示した。ワクチン接種回数およびワクチン接種から採血までの期間とNT価との間に特定の傾向は認められなかった。なお,投与されたワクチンの製造元やLot bノついての個人別追跡はできなかった。

 これまで我々は,ワクチン接種だけで1:10,000以上のNT抗体価が検出された事例を経験したことがない。従来日脳の場合,自然感染およびワクチン接種で産生される抗体価はNT価がHI価より8〜10倍高い価を示すと考えられてきた。

 宮城県では,異常に高い抗体価が認められた検体について,繰り返しNTの測定を行うとともに,HI抗体の測定も平行して実施したが,再現性はきわめて良く,検査術式上の問題とは考えられなかった。そこで,1:5,000以上の抗体価を認めた5検体を国立予研に送付し,確認検査を依頼した。予研ではVero細胞を用いて抗体価を測定したところ,表2に示すように宮城県で得た価とは若干の差が認められたものの,ほぼ相関した高いNT価が検出された。さらに予研では,5件の血清を蔗糖密度勾配超遠心法により分画し,各画分について中和能をJaGAr01株と北京株とで測定した。その結果,IgM画分には活性を認めず,IgG画分のピークにHI価が1:2以下,中和価がJaGAr01株に対し1:32,北京株に対し1:256と高い中和能が認められた。

 一方宮城県では,1993年に他の研究目的で採血したTU町住民に,1992年6月に日脳ワクチン接種を受けた4歳児3例が存在したので,この3名についてNTの測定を行った。その平均抗体価は1:4,460と高い価を示し,県内ではIS市以外にもワクチン接種によって高いNT抗体価を獲得した事例が存在することを明らかにした。

 宮城県下の日脳流行状況についてみると,1967年以降患者発生例は認められず,感染源調査ならびに感受性調査成績からも低流行の様相が裏付けられている。また,中山株ワクチンが使用されていた1984年に,同じIS市で行われた感受性調査成績ではワクチン接種後1〜2年経過した4〜5歳群のNTが平均抗体価で1:20と非常に低値を示していた。

 今回得られた結果から推測されることは,日脳ワクチンの製造株が1989年に中山株から北京株に変更されたことが大いに関係していると思われる。今後,日脳感受性調査を行う際には,高いNT価が認められる可能性を念頭に置く必要がある。



宮城県保健環境センター
秋山 和夫,植木 洋,白地 良一,山本 仁
国立予防衛生研究所
小林 正美


表1.年齢群別中和抗体価分布(宮城県IS市 1993年10月採血)
表2.ワクチン接種者の中和抗体価





前へ 次へ
copyright
IASR