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1993年4月〜1994年1月にかけて,秋田県内の某地区において極めて高頻度に髄膜炎を併発する流行性耳下腺炎が波状的に流行した。この時期に同地区で分離されたムンプスウイルスの性状を調べたところ,自然罹患(ワクチン未接種)にもかかわらず,Bam HIとEco 0109Iを用いるPCR-RFLP法(Akio Yamada et al., Vaccine 8:553-557,1990)によってワクチン由来株(占部株)と判定されるものが含まれていた。そこで,そのウイルスの起源を調べる一環として遺伝子解析を行ったので報告する。
検査は自然罹患した患者咽頭ぬぐい液または髄液を検体とし,Vero細胞を用いた分離とnested PCRによる直接検出法を併用した。ここで陽性となったものについて上記のPCR-RFLP法を行った。
1993年4月〜1994年7月までの同地区におけるムンプスウイルスの検出状況を図1に示した。図上段は直接検出法,下段は分離による結果であり,ウイルスが分離された検体からはすべて直接検出法でウイルス遺伝子が検出された。1993年4月〜94年1月にかけて,20検体からnested PCRにより占部株様のRFLPを示すウイルスが検出され,そのうち3検体からはVero細胞でウイルスを分離することができた。そこで,占部株型のRFLPを示した流行株と占部ワクチン株との異同をさらに感度の高い方法で調べるために,増幅したDNA断片15例についてSSCP法で比較解析したところ,いずれもワクチン株とは区別される性状を示したが,その方法の詳細は本号の山田らの報告を参照されたい。さらに2株についてPCR産物の塩基配列を決定し,これまでに知られているウイルス株のそれと比較したところ,占部株と同様に,199番塩基がAからGに置換した結果,Bam HI切断部位が消失していた。さらに,占部株と比較して,4ヵ所に塩基置換が認められた。この4ヵ所の塩基置換は,これまでの野生分離株と比較しても共通するものではなかった。
このウイルス株は,RFLPの判定に使われるBam HI切断部位においては占部株と共通していたが,他の部位に特徴的な塩基置換があるため同一の株ではないと考えられる。臨床的な特徴として高頻度に髄膜炎を併発したことがあげられるが,病原性と塩基置換の関係は不明である。また,家族内感染も含めて同一地区内のみに発生していること,および,1994年2月以降検出されていないことから,ある期間限定された地域における流行であったと考えられる。その成因についての疫学的な解析については現在進めているところであるが,上記の成績については第42回日本ウイルス学会総会で報告する予定である。
秋田県衛生科学研究所
斎藤 博之,原田 誠三郎,田中 恵子,佐野 健,須藤 恒久,森田 盛大
国立予防衛生研究所
山田 章雄,山崎 修道
大館市立総合病院
高橋 義博
図1.PCR-RFLPの分類によるムンプスウイルスの推移
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