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遺伝子レベルでのウイルスの型や株の同定が身近なものになって久しいが,特にムンプスウイルスなどのように血清学的には単一であると考えられてきたウイルスの株を特定するには,遺伝子レベルでの解析が強力な武器となる。
我々はムンプスウイルスの株鑑別に,ウイルスのP遺伝子の一部の制限酵素切断パターン(いわゆるRFLP)が利用できることをかつて報告したが,これは当時MMR統一株に含まれていたムンプスウイルス占部株を迅速に鑑別するための方法であって,現行の5株のムンプスワクチンのうち占部株以外の4株を迅速に鑑別するのには,ここで紹介するSSCP(single strand conformation polymorphism)解析によっている。
ウイルスRNAの調製:感染価の十分にある分離ウイルスであればそのまま用いることができる。ウイルス液に最終濃度で0.1%のピロ炭酸ジエチルならびに0.5%のNP-40を加え,100℃,5分加熱した後,12,000rpm,30秒遠心した上清を粗RNAとする。感染価が低い場合,あるいは髄液などの患者材料をじかに扱うときは,AGPC法によりRNAを分画する。200μlの検体に500μlの変性試薬(4Mグアニジンチオシアネート,25mMクエン酸ナトリウムpH7.0,0.1M 2-メルカプトエタノール,0.5%サルコシル),50μlの2M酢酸ナトリウム(pH4.0),500μlフェノール,100μlクロロホルムを加え,10〜20秒ボルテックスし,氷上に15分静置,10,000g,20分の遠心上清に等量のイソプロパノールを加え,−20℃,30分静置した後,16,000g,10分遠心する。その沈査を75%エタノールで洗浄した後,少量の滅菌水に溶解する。イソプロパノール沈殿を行う際にキャリアーとしてグリコーゲンを加えてもよい。
RT-PCR:上記RNAを鋳型としてRT-PCRを行う。95℃1分加熱,氷中で急冷した10μlのRNA溶液に4μl 5x RT緩衝液(250mM Tris-HCI,pH8.3,375mM KCI,15mM MgCI2),2μl 10mM dNTP,2μl 0.1M DTT,20pmole 5´プライマー,20pmole 3´プライマー,50単位RNase インヒビター,200単位Mo-MuLV逆転写酵素を加え滅菌水で全量20μlにする。37℃1時間インキュベートした後,8μl 10x Taq緩衝液(700mM トリス塩酸,pH8.8,20mM塩化マグネシウム,1%トリトンX-100),2μl 10mM dNTP mix,50pmole 5´プライマー,50pmole 3´プライマー,2単位Taq DNAポリメラーゼを加え滅菌水で80μlにする。95℃,1分,55℃,2分,70℃,1.5分から成るPCRを20〜25サイクル行う。
SSCP解析:0.5μlのPCB産物に1pmoleずつのXRITC標識5´および3´プライマー,1.0μlの10x Taq緩衝液,1.0μlの200μM dNTP,0.2単位のTaq DNAポリメラーゼを加え,滅菌水で10μlとし,再びPCRを行いDNAを蛍光標識する。その1μlに4μlのホルムアミドを加え94℃,2分加熱した後2μlを5%グリセロールを含む6%ポリアクリルアミドゲル中で20mA/ゲル,1.5時間0.5x TBE緩衝液を用いて26±1℃で電気泳動した後,FM-BIO100イメージアナライザーで解析する。
使用するプライマーはすでに報告したP9およびP10であるが,さらに外側に設定したもの(Pf,Pr)を初回のプライマーに用いても良い。参考までに各プライマーの塩基配列を記しておく。
P9:5´-CTCATTGGCAATCCAGAGCA-3´
P10:5´-ATGAACCTGTTGGTTGGATA-3´
Pf:5´-AACCAACTCGTTGAGCAAGG-3´
Pr:5´-CTATCTTAGCCAATTCCACA-3´
我々は蛍光標識により解析を行っているが,これはRI施設を使用しないですむからで,RI標識で行うことも勿論可能である。また,銀染色を施せば特殊なイメージアナライザーは必要ではない。ただし,泳動条件などについては別途検討する必要があることはいうまでもない。
文 献
Katayama K. et al. : Differentiation of mumps vaccine strains from wild viruses by single-strand conformation polymorphism of the P gene. Vaccine 11: 621-623, 1993
予研ウイルス製剤部 山田 章雄
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