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平成6年(1994)年7月,三重県の北部,愛知県に隣接する桑名市に顔面や大腿部および臀部に生ずる小発赤疹の流行があり,患児の糞便や咽頭擦過物からコクサッキーウイルスA9型(CA9)を分離したので,その状況について報告する。
表1は,CA9を分離した患者の臨床診断名と臨床所見である。
桑名市とその周辺の3〜5歳の保育園児を中心に流行したCA9の感染症は,38〜39℃の発熱と咽頭発赤を主徴とする急性上気道炎の症例と顔面,大腿部,臀部および背部の痛みを伴わない小発赤疹を主徴とする発疹症の症例とがみられたが,両者には年齢や環境等病像の誘因となるような違いはみられなかった。同時期に発生した散発例の亀山市や名張市の患者には小発赤疹の所見は報告されていない。
表2は,三重県で感染症サーベイランスの調査が始まった1980年〜1994年の15年間にCA9が分離された患者の臨床診断名である。
CA9の流行例では,胃腸炎や上気道炎の疾患が多く,発疹症の流行が確認されたのは今年が初めてである。しかしながらCA9が流行した1982年,1989年には,散発例ながら発疹症の患者が報告されている。
散発例にみるCA9の臨床診断名は,無菌性髄膜炎が多く,その他小脳失調,上気道炎,肺炎,ヘルパンギーナ等と多彩で,ヘルパンギーナを主徴とするCA2〜CA6およびCA10の病像とは異なるようである。
CA9の好発時期は,上記CA群の流行期とほぼ同じであるが,地域の小さな流行に終わることが多く,全県域的に流行するCA2〜CA6およびCA10のウイルス群とは流行規模に違いがみられる。その原因としては,CA9ウイルスは,表2にみるように,県下では,毎年のように検出され,常在型のウイルスと考えられることに関係しているように思われる。
三重県衛生研究所
櫻井 悠郎,山端 真美,上妻 久近
表1 CA9ウイルス分離患者の臨床診断名と症状
表2 三重県で分離したCA9と疾患名
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