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1993年9月〜1994年9月までの13カ月における埼玉県内医療機関(浦和市)で分離された溶血レンサ球菌は719株で,うち咽頭粘液由来が612株(85.1%)を占めた(表1)。血清学的群別では,A群が95.1%,次いでG群2.9%,C群0.8%,B群0.4%等で,そのほとんどがA群で占められている。
咽頭由来A群レンサ球菌582株の年齢層別分離状況は,不明125株を除く457株では,0〜6歳172株(37.7%),7〜12歳155株(33.9%),13〜18歳13株(2.8%),19歳以上117株(25.6%)であった。分離株の72%は0〜12歳で占められ,小児疾患から分離されていることが裏付けられる(表2)。
A群レンサ球菌のT血清型の主流行菌型のなかには,長期的な流行をしている菌型,あるいは季節的流行の変遷を繰り返している菌型など菌型による特徴がみられる。特に,A群レンサ球菌感染症は,特異的な季節的流行パターンを示すことで知られており,夏期8月の最低発生率を境にして,9,10,11あるいは12月を頂点とし,1,2,3月と下降する大きな山と,4,5,6,7月と6〜7月を頂点とする小さな流行の山を示すパターンが毎年繰り返されている。しかし,この流行パターンにも年により月別発生の頂点のずれや山の規模に変化がみられている。さらに流行菌型の動向を推測する場合には,前年9月から翌年7月までが咽頭A群レンサ球菌流行の1シーズンと考えられるので,流行菌型の1単位とみられる。主流行菌型のなかでも,特にT12型のように長期的な流行での変遷を示し,さらに季節的流行が認められるような菌型もある。
以上の観点から,最近13カ月の主流行菌型を解析すると(表3),582株中T12型22%が第1位を占め,次いでT4型14%,TB3264型12%,T3型12%,T28型11%,T11型7%,T1型6%などの順であったが,特に,咽頭A群レンサ球菌の菌型流行の予測および解析は,短期間のデータでは流行の実像が読み取り難く,したがって過去の継続的調査資料をもとに解析を加える必要がある。
そこで,過去数年の資料を加味すると,次のようなT菌型の流行実態が読み取れる。分離率第1位のT12型は,長期的な流行パターンを示す菌型の1つであり,毎年上位に顔を出している菌型である。第2位のT4型は1988年頃から流行しており,1989年度から1992年度まで第1位を占めていた菌型である。TB3264型は1982年頃から1992年までほとんど流行の跡はみられなかったが,1993年冬期に流行のあったことが推測される。T3型は1987年から1988年にかけて流行の山がみられたが,その後1993年3月までほとんど流行らしき跡が認められなかった。しかし,1993年10月頃から11,12月と分離数が上昇し,1994年8月まで毎月分離され,流行の山が認められた。T28型は,1993年9月から1994年9月まで毎月分離されており,今後の動向が注目される。そのほか,わが国の主流行菌型であるT1型は7位で,1993年10〜12月にかけて小流行が認められた。また,T6型はほとんど分離されなくなっている。
埼玉県衛生研究所病理細菌部
奥山 雄介,井上 豊,嶋田 直美
表1.臨床材料由来別,溶血レンサ球菌分離状況
1993年9月〜1994年9月(埼玉県)
表2.咽頭由来,A群レンサ球菌の性・年齢層分布
表3.咽頭由来,A群レンサ球菌T血清型分布,1993年9月〜1994年9月(埼玉県)
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