HOME 目次 記事一覧 索引 操作方法 上へ 前へ 次へ

Vol.15 (1994/11[177])

<国内情報>
保育所における小型球形ウイルスによる胃腸炎の集団発生−滋賀県


 1994年5月,滋賀県内のI保育所で,嘔吐を主症状とする集団胃腸炎が発生し,多数の園児が欠席したことから,5月23日,管轄する保健所へ原因調査依頼があった。

 I保育所では,5月17日〜23日にかけて,全園児数73名の38%にあたる28名の園児が胃腸炎症状により欠席した。このうち5月20日には23名が欠席した。症状は,嘔吐(26名),下痢(4名)が主体であった(表1)。また,1名の保母が20日早朝に嘔吐,下痢等の症状を示した。

 発症園児のうち4名の症状と家族の状況を保健所が調査した。園児の症状については,嘔吐の回数は1〜10回,下痢の回数は0〜3回,また,2名に微熱を認めた。3名は19日夕刻〜20日早朝にかけて発症していた。この3名については,22日〜23日の間に,家族内で嘔吐,下痢等の胃腸炎症状を呈するものがいた(表2)。

 5月24日,上記の園児4名から採便を行い,電顕検索を行ったところ,3名の糞便から小型球形ウイルス(SRSV)が検出された。さらに,5月27日,園児の家族で発症した者1名,保母6名,給食施設職員10名,牛乳処理業者4名の糞便を検査したところ,家族1名からはSRSVが検出されたが,それ以外からは検出されなかった。なお,ラテックス凝集法を用いたキットによりA群ロタウイルス,アデノウイルスを,また,培養細胞によりエンテロウイルスをそれぞれ検査したが,結果はすべて陰性であった。細菌学的検査の結果,共通する食中毒起因菌は検出されなかった。

 さらに,採便を行った園児4名,保母6名,給食施設職員10名,牛乳処理業者3名と,園児が受診した診療所看護婦1名のペア血清について,園児および家族の糞便を抗原としたウエスタンブロット法により抗体検出を行った。園児4名と看護婦1名について,抗体上昇が確認された(表3)。看護婦については,5月22日15:00から,吐気,嘔吐,下痢といった胃腸炎症状を呈していた。なお,この抗原は約34kDであり,1989年に埼玉県で確認されたSRSV抗原と同じ分子量であった。

 今回の事例では,同じ給食や牛乳を利用する他の施設からの発症報告はないことおよび関係者の血清中の抗体上昇は認められなかったことから,原因は特定できなかった。一方,1家族で抗原性の同じSRSV感染が確認されたことから,人から人への二次感染が疑われる事例であった。



滋賀県立衛生環境センター 吉田 智子,武甕 好美,横田 陽子
大阪市立環境科学研究所  勢戸 祥介,春木 孝祐,木村 輝男


表1.園児の日別欠席数と症状
表2.園児および家族の発症状況
表3.SRSV陽性者の検査結果





前へ 次へ
copyright
IASR