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Vol.16 (1995/2[180])

<国内情報>
6〜8月(夏期)に検出されたA群ロタウイルス−奈良県


 ヒトA群ロタウイルスは乳幼児の急性ウイルス性胃腸炎の病因として最も重要で,主に冬期に流行する。このウイルスは,内殻および外殻の抗原的差異によって亜群T,Uに,主要な血清型は1〜4に分類される。しかもRNA電気泳動パターンの第10,11分節移動度の違いによってshort(S)型,long(L)型に分類される。一般にRNAのL型は亜群U,血清型1,3,4型に,S型は亜群Tで血清型2に対応するといわれている。

 奈良県では,感染症サーベイランス事業において検査依頼された便材料は,各々の細胞に接種すると同時に,ラテックス凝集法(ロターアデノドライ,第一化学)およびELISA法(ロタクロン,東レフジバイオ)を用いてA群ロタウイルスの検出を行っている。1993年では,A群ロタウイルスは一般的にいわれているとおり1〜4月(冬〜春期)に多く検出されたが,1994年は1〜5月(冬〜春期)と6〜8月(夏期)に多く検出された(表1)。この二峰性になった原因を亜群,血清型,RNA泳動型および検査依頼票から調査した。

 RNA泳動型,血清型および亜群についてみると(表2),両時期とも同じ傾向を示した。すなわちRNA泳動型はL型,血清型は1型で亜群Uが大部分であった。このような傾向は他の地域の1993〜94年の流行と同様である。

 一方,検査依頼票によると(表3),年齢,臨床症状は,両時期とも同じ傾向を示した。検出地域については,1〜5月の患者は広域にわたり,6〜8月(夏期)では局所的であった。

 この結果から,患者発生の二峰性について確かな原因はわからなかった。しかし,A群ロタウイルスによる乳児下痢症は,主に冬期に発生するといわれているが,夏期にも発生することが示された。下痢症患者材料については通年でロタウイルスの抗原検索をした方がよいと考えられる。



奈良県衛生研究所
谷 直人 中野 守 市川啓子 玉瀬喜久雄
福岡裕恭 市村國俊 西井保司 丸上昌男
国立予防衛生研究所
長谷川斐子


表1. A群ロタウイルスの検出状況(1994年)
表2. 検出されたA群ロタウイルスのRNA泳動型,血清型および亜群
表3. A群ロタウイルスが検出された患者情報





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