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Vol.16 (1995/2[180])

<特集>
ウイルス性胃腸炎 1992〜1994


 本特集では病原微生物検出情報のウイルス報告中,臨床症状として胃腸炎が報告され,かつ便からウイルスが検出された例をウイルス性胃腸炎患者として解析した。

 10月1日〜翌年9月30日までの1年間を1区切りとして集計すると,1992/93と1993/94の2年間の胃腸炎患者からのウイルス検出報告は2,675(1995年1月20日現在)で,内訳はロタウイルス1,574(C群18を含む),小型球形ウイルス(SRV:ノーウォーク様ウイルス,カリシウイルス,アストロウイルス等を含む)366,エンテロウイルス441,アデノウイルス285,その他9であった(図1)。

 厚生省感染症サーベイランスでは胃腸炎患者数を「感染性胃腸炎」と「乳児嘔吐下痢症」にわけて小児科・内科定点から収集している。ロタウイルスの大半はサーベイランス定点の患者からの検出である。ロタウイルスはこれまで1月〜2月をピークに検出されていたが(Jpn. J. Med. Sci. Biol., Suppl., 1984−1993参照),1992/93は図2に示すように1月までの検出が少なく,2月に増加し(161),3月にピークとなった(225)。さらに4月の検出数(188)はこの月としては過去最高で,1993年3月末〜4月にサーベイランスによる2疾患の患者報告がこれまでになく多かったこと(図3)に一致していた。1993/94は2月の検出数がピーク(261)であった。

 一方,SRVはサーベイランス定点の患者からの検出報告が少なく,集団発生例からの検出報告が多い( 本月報Vol.14,No.39Vol.15,No.2411本号参照)。 SRV検出報告中,1992/93は41%(31/75)が集団発生例であったが,1993/94は66%(192/290)に増加した。SRVは1994年1月に99,2月に65の検出が報告された(図2)。

 検出されたウイルス別に胃腸炎患者の年齢分布を図4に示した。ロタウイルス検出例は0〜4歳88%,5〜9歳6.6%,アデノウイルス検出例は同82%,13%,エンテロウイルス検出例は同74%,21%であった。一方,SRV検出例は同31%,7.9%で,この2年間の報告では10歳以上が多く(22%),また,年齢不明(39%)が多かった。

 ロタウイルスの検出は電顕によるウイルス粒子の直接検出,ELISA,RPHA,ラテックス凝集反応による抗原検出,PAGEによるRNAセグメント解析(RNA−PAGE)が実施されている(表1)。ロタウイルスの抗原検出にはこれまでA群特異的試薬が使用されてきた。現在,血清型特異的単クローン抗体を用いてA群をさらに型別する調査が進行中である。C群ロタウイルスの同定は免疫電顕またはRNA−PAGEによっていたが,最近,岡山県環境保健センターでC群特異的単クローン抗体を用いるRPHA等が開発された。本報告中10例はRPHA( 本月報Vol.14,No.6参照 ),8例はRNA−PAGEでC群と群別された。

 ロタウイルスは簡便な抗原検出法が普及しているため,この2年間に41地方衛生研究所と1国立病院から報告された。これに対し,SRVはまだ電顕による検出が多く,18地研からの報告であった。現在,ELISA,RT−PCRによるSRVの検出法が研究開発されつつあり,近い将来SRVの新しい分類法が確立されると思われる(本号参照)



図1. 胃腸炎患者の便から検出されたウイルス,1992年10月〜1994年9月
図2. 胃腸炎患者からのウイルス検出数の推移,1992年10月〜1994年9月 (便由来)
図3. 感染性胃腸炎と乳児嘔吐下痢症患者報告数の推移(感染症サーベイランス情報)
図4. 検出ウイルス別胃腸炎患者の年齢分布,1992年10月〜1994年9月 (便由来)
表1. 胃腸炎患者の便からのウイルス検出方法,1992年10月〜1994年9月





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