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Vol.16 (1995/2[180])

<国内情報>
アストロウイルス検査試薬の現状


 小型球形ウイルス(SRV)の一つであるアストロウイルスは,1975年小児胃腸炎患者から電顕によって初めて検出された直径28〜30nmのウイルスで,粒子表面は特徴的で明瞭な星状構造を有している。本ウイルスは現在7つの血清型があり,他のSRSVと異なり細胞培養で増殖できる。しかし、この細胞培養法は通常の検査方法としては適した方法とはいえないので,一般的には電顕観察(EM)によってのみウイルス検出報告がなされているのが現状である。ところで,1型から5型までのプロトタイプウイルス(6型,7型はごく最近英国で分離された株なのでまだEIAの検査用抗原および抗血清ができていない)については,米国CDCで研究用のウイルス抗原検出EIAキットが作製された。

 わが国初のアストロウイルスによる急性胃腸炎流行は,1978年仙台市の幼稚園で発生したことが今野らにより報告されている1)。その後,EM検索で散発事例からウイルスの報告はされていたが,流行事例の報告はほとんどなかった。1991年6月大阪府で4,000人以上の学童,教師,調理師が感染した急性胃腸炎事件でEMによりアストロウイルスが高率に検出され,この流行の病原体であることが疑われた2)。同じ検体について,国立予防衛生研究所で上記EIAキットを用い患者便中の抗原検出を試みたところ,検査した検体のおよそ50%から抗原が検出され,この流行がアストロウイルスによるものであることが確認された。そこで,従来原因不明として処理されていた急性胃腸炎の事例についてEIAキットを使用して再度検査を試みた結果,1989年〜1992年までに長野県,山口県において3つの流行事例が,また1982年〜1991年にかけて東京都,長野県,愛知県,愛媛県で収集された散発事例からもアストロウイルスが高率に確認された3)。

 今回使用したEIAキットは米国CDCから分与されたもので,研究の目的にしか使用できない等の制約がある。一方,愛媛県立衛生研究所(大瀬戸博士ら)で1型から5型まですべての型がCaCo-2細胞で培養可能となったことから,わが国においてもこれらのウイルスの抗血清の作製が可能となった。そこで,ウイルスを培養後CsC1平衡密度勾配遠心法で精製し,EIA用免疫血清を作製することを目的に,1992年から5カ所の衛生研究所(東京都,愛知県,大阪府,大阪市,愛媛県)と予研とが協力して,現在これらの型について抗血清の作製が進行中である。さらに,6型と7型についても最近米国CDCからウイルス株が入手でき,大瀬戸らによりCaCo-2細胞培養での検討がなされており,近い将来他の株と同様に抗原および抗体の作製が可能となるものと考える。

 また,アストロウイルスの遺伝子解析が最近進んできており,これらの塩基配列から各血清型に共通のPCR用プライマーが構築されている。大阪府公衆衛生研究所(大石博士ら)では,すべての血清型のプロトタイプウイルスを対象にこの共通プライマーを使用したPCR検査法の検討を行った結果,期待された増幅産物が得られた(1型から7型まで)。しかし,各型別については,今後さらに条件検討を加える必要がある(大石)。今後は,アストロウイルス検出の検査方法としてPCR法の使用が可能となってくるものと考える。



 参考文献

1)Konno T. et al., J. Med. Virol., 9:11-17, 1982

2)Oishi I. et al., J. Infect. Dis., 170:439-443, 1994

3)Utagawa E. T. et al., J. Clin. Microbiol., 32:1841-1845, 1994



予研感染症疫学部 宇田川悦子





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