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1994年,和歌山県すさみ町の国保すさみ病院内科の柳川卓弥医師らによって,この県における初めての紅斑熱患者が見いだされた。紅斑熱群リケッチアの一つRickettsia japonica(Aoki株)の抗原を用いた間接免疫ペルオキシダーゼ(IP)反応によって,血清中に有意な抗体産生が確認された患者は,発生順につぎの3名である。
1:76歳女性,6月,すさみ町
2:51歳男性,8月,日置川町
3:70歳女性,9月,すさみ町
なお,第1例目は,第2例目の確認を契機に,後日の抗体検査によって見いだされた重症例で,腸チフスを疑って投与したクロラムフェニコールによって治癒したものと思われるという。
最初の2名の患者が確定診断されてからまもなく,第3例目の患者に遭遇した柳川医師は,病原体の検索が必要と考え,リケッチア分離用に,有効な抗生物質投与前の急性期の血液を同患者から採取して−40℃のフリーザーに凍結保存しておいた。この血液は1週間保存された後に,ドライアイス詰めで大原研究所に輸送され,培養細胞(L-929)による分離が試みられた。当初,分離用の血液が採取された時点にはすでにIgG,IgM両抗体が低値ながら検出されていたことに加えて血液の保存温度が−40℃であったことから,リケッチアはすでに不活化していることが予想されたが,血液接種から12日目の細胞にはリケッチアの増殖が認められ,以後の同培養細胞による継代では良好な増殖を示した。
分離株(Nakase株)を抗原としたIP反応では,R. japonicaに種特異的な単クローン抗体(C3)(Oikawa et al., 1993, Jpn. J. Med. Sci. Biol., 46, 45-49)に陽性であり,これと同種のリケッチアと同定された。
大原綜合病院附属大原研究所 藤田博己
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