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1994年4月23日(土)午前11時30分頃,鯖江市清水町のS小学校で,多数の児童が腹痛,嘔吐などの胃腸炎症状を呈し欠席し,診断にあたった校医より「食あたり」かもしれないという申し入れがあったと校長より所轄保健所に連絡が入った。保健所では早速,食中毒ならびに感染症の両方を疑い疫学調査を実施した。初発は4月22日(金)午前6時30分頃で,翌日の4月23日にかけて全児童161名中96名(60%)が発症,24日には終息した。ピークは22日で発症者58名,欠席者23名であった。患者は1年生から6年生にまたがっており,発生前の特記すべき行事もなく,校内給食室で調理された給食が原因と推定された。なお,同時に喫食した教職員12名の発症者は皆無であった。主な症状は腹痛(60%),嘔気(48%),嘔吐(45%),脱力感(33%)等で,下痢の有症率(25%)は低かった。発熱(37.5%〜38.5℃)は11名にみられたが,全体的に軽症で,発症後1〜2日で軽快した。患者児童から家族への二次感染は確認できなかった。
食中毒菌の検索は患者児童便81件,教職員便12件,調理人便2件,ふきとり7件,給食室採取水(町上水道)3検体について実施し,黄色ブドウ球菌14株,セレウス菌1株を分離したが,コアグラーゼ型およびエンテロトキシン型等に同一性は認められず,食中毒起因菌としての確定はできなかった。
一部の患者材料について,ロタウイルスおよびSRSV等のウイルス検索をELISA法およびEM法で実施した(表1)。その結果,EM法で患者便16検体中11検体から35nm前後のSRSV様粒子を検出した。しかしながら,陽性材料中に含まれているウイルス粒子数(中空粒子を含む)は極端に少なかった(1〜2個/スクエア)。そのため,十分量の抗原が確保できず,採取した11名の患者ペア血清について行った免疫電顕法でも明瞭な凝集像は確認できなかった。それゆえ,多数の患者材料から同じ様に微量のSRSV様粒子が検出されているものの,起因ウイルスとして断定するには迷いがあり,大いに躊躇された。
そこで,陽性材料の一部を予研・感染症疫学部にPCR法とHybridization法による確認を依頼した。SRSV確認用プライマーおよびプローブは宇田川博士(予研)らが最近開発したものである。その結果,PCR産物のエチジウムブロマイド染色ではすべて陰性となったが,PCR産物のHybridization(Southern法)で8検体中6検体が陽性を示した。このことから,本事例はSRSVに起因する集団急性胃腸炎と判断した。
今回の事例は患者材料中に含まれるウイルス粒子数が極端に少なく,EM法のみに頼っている現状では原因不明になりかねない陽性限界すれすれの事例であった。PCR法の感度が十分とはいえないまでもHybridization法を併用することにより確認できたことは,従来原因不明で片付けられていた多くの事例の一部が,SRSVである可能性を強く示唆しているものと思われる。
SRSVによる急性胃腸炎集団発生の多くは生カキ摂取による例が多い。本事例は給食が原因と推定されたが,SRSVの一般的な潜伏時間(24〜48時間)から推測される20日(水)および21日(木)両日の献立にカキは使われていなかった。
福井県衛生研究所
松本和男 前側恒男 平本伊久江 村岡道夫 飯田英侃
国立予防衛生研究所
宇田川悦子
表1. 病原体検索結果
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