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Vol.16 (1995/2[180])

<国内情報>
東京におけるSRSV下痢症の集団発生


 今冬期初めの東京都内のSRSV集団下痢症の発生概況を紹介する。

 食中毒の疑いで搬入された糞便検体を対象に,電顕検査とPCR検査の併用で,SRSV感染の有無を検査した。その結果,今シーズンのSRSV事例の最初は,9月13日に都内の養護学校で発生した事例で,その後,12月3週までの間にあわせて17集団にSRSV感染が確認された(表1)。このうち7集団は保育園,学校等で発生したもので,患者数も多く,給食または調理実習材料が原因として疑われたカキ非関連の事例であった。特徴的な3集団の事例の概要は以下のとおりである。

 [事例1:9月13日]

 9月16日,都内の養護学校より出席状況の異状が報告された。生徒57名中16名,職員51名中1名が欠席しており,校医の診断はウイルス性の風邪であった。発症者8名のSRSV検査の結果,PCR法で2名が陽性であった。聞き取り調査が十分できなかったため,発症の原因は不明である。なお,13日に発症した生徒の担任が16日に発症しており,二次感染の可能性もある。

 [事例2:10月28日]

 都内小学校(児童218名,職員25名)で児童45名が欠席,嘔気,嘔吐,下痢,発熱等の症状を呈していた。欠席者は1年13名,2年1組16名で,他の5クラス(2年2組と3〜6年は各1クラス)は3〜4名程度であった。27日は給食はなく,25,26日の給食の喫食調査を行ったが,原因食品は特定されなかった。発症者5名および非発症者1名がSRSV陽性であった。

[事例3:12月4日]

 都内小学校6年2組(41名)で,12月2日に調理実習を行った。献立はコンビーフのピカタ,はんぺんのはさみ焼き,サラダ,洋風お好み焼き等である。このうち23名が4日より下痢,嘔気等の症状を呈した。発症者は6年2組に限局しており,他のクラスの出席状況は通常であることから,調理実習の食品が原因食として疑われた。25名の検査結果,発症者16名と非発症者5名からSRSVが検出された。

 今冬期のSRSV下痢症は,9月という例年よりもかなり早い時期に初感染が確認された。これは,PCR検査法の併用により,SRSVの検出感度が向上したためと考えられる。また非発症者にもSRSVが検出される割合が増加したこと,当期間の原因不明食中毒事例がすべてSRSV陽性となったことも,同様の理由であろう。なお,都衛研が定点としている一小児科医院におけるSRSV初発患者は9月26日に発病している。

 従来,SRSV下痢症の原因食品としてカキが最有力視されている。しかし,学校等の事例が,カキ解禁以前に発生しており,カキ以外の食品や水をはじめとする環境中にも原因があると考えられる。さらに吐物中にもSRSVが検出されるようになり,糞口感染以外の感染ルートも考慮する必要がある。

 東京都では食中毒疑いの事例のみがSRSV検査の対象となっている。一方,都のサーベイランス事業速報によれば,11月下旬より感染性胃腸炎が急増している。そして,その大部分にSRSVが関与している可能性は高く,SRSV下痢症の実態は相当数に達すると考えられる。



東京都立衛生研究所ウイルス第一室
佐々木由紀子 関根整治 林 志直


表1. ウイルス性下痢症の発生事例の検査結果





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