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Vol.16 (1995/3[181])

<国内情報>
多発したエンテロウイルスの混合感染−富山県


 同一検体から2種類以上のウイルスが分離されることは,頻繁ではないにしても珍しいことではない。ウイルス感受性の異なる複数の培養細胞を用いてウイルス分離検査を行う場合,比較的容易に種類の違ったウイルスが分離されることがある。しかし,複数のウイルスが共に臨床症状の発現に関与しているのかを明らかにすることは困難な場合が多いといわれている。富山県で,昨年の夏に2種類のエンテロウイルスが同時に分離される患者が多発したので,混合感染例として以下に報告する。

 1994(平成6)年5月〜10月にかけて多くの医療機関から,無菌性髄膜炎(AM)などのウイルス学的検査のために,患者から採取した検査材料が当研究所に持ち込まれた。培養細胞はVero細胞とRD-18S細胞を用いてウイルス分離検査を行い,被検者54名のうち40名の検体からウイルスを分離した。分離ウイルスは99株であり,検体別に糞便から44株,咽頭ぬぐい液から48株,髄液から7株であった。これら分離ウイルスは,予研分与および市販の抗血清を用いた中和試験によって同定した。ウイルスの内訳は,エコーウイルス(E)9型43株,コクサッキーウイルス(C)B2型35株,CB5 15株,CA9 3株,E4 3株であった。Vero細胞で分離されたウイルスはすべてCB2またはCB5と同定され,RD-18S細胞で分離されたものはE9またはE4,CA9であった。ところが,同一検体からVeroとRD-18Sの両細胞でウイスルが分離される混合感染例が多数みられた。混合感染のあった糞便14検体,咽頭ぬぐい液16検体から分離された2種類のウイルスは,CB2+E9の組合わせが26検体で圧倒的に多く,CB2+CA9が2検体,CB2+E4が2検体であった。

 ウイルスが分離された患者40名の臨床診断名は,発疹を伴ったAM4名,痙攣を伴ったAM1名,AMのみ30名,発疹症4名,熱性疾患1名であった。患者の年齢は出生直後の新生児から11歳までの範囲に分布していたが,4〜7歳が半数以上を占めていた。これら患者からのウイルス分離状況には,2つのパターンが観察された。CB5は,痙攣を伴ったAM1名,AMのみ4名および熱性疾患1名の計6名から分離され,AM患者の髄液からも高率に分離された。一方,CB2は,発疹を伴ったAM4名,AMのみ15名,発疹のみ4名の計23名から分離されたが,そのうち大部分の21名が混合感染であった。CB2と同時に分離されたウイルスは,E9が非常に多く19例を占め,残りの2例はE4とCA9であった。しかし,これら混合感染のAM患者の髄液からはE9とE4がそれぞれ1株ずつ分離されたのみであり,ほとんどの患者の髄膜炎が2種類のウイルスによるものか明らかにすることができなかった。

 患者の現住所から,これらの感染症が県内の広い地域で発生していたことが推測された。しかし,分離ウイルスの地域的分布をみると,CB5の感染は広域で散発していたのに対し,CB2およびE9の大部分は県西部の患者から分離され,特にT市とD町では混合感染例が多く見られた。以上のことから,CB2とE9の流行が県西部で重なったものと考えられる。患者の臨床所見は,AM,発疹症いずれの場合も,1種類のウイルス感染と混合感染とを比較して,著しい差異は認められず,全例が治癒したとのことである。



富山県衛生研究所
森田修行  中山 喬 松浦久美子 長谷川澄代


臨床診断別,検体別ウイルス分離状況





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