|
無菌性髄膜炎は,毎年夏に流行する疾患で,エコーウイルス,コクサッキーB群ウイルス,ムンプスウイルス等によって起こる。
感染症サーベイランス情報によると,1994年の無菌性髄膜炎の患者報告数は,6月から増加し,7月にピークを示し,10月に終息した(図1)。1994年の流行は,地域別にみると,関東以西,特に九州・沖縄で大きかった。一定点医療機関当たりの年間患者報告数の全国平均は5.11人で,多かったのは九州・沖縄の10.55人,中国・四国の6.19人で,少なかったのは北海道の0.20人,東北1.75人であった。前年比は,全国平均では1.31で,最も高かったのは九州・沖縄の1.86,前年を下回ったのは北海道の0.30であった。北海道では過去3年間報告数が少ない。
1994年に病原微生物検出情報へ報告された髄膜炎症例(臨床診断名が無菌性髄膜炎,細菌性髄膜炎,感染性髄膜炎,または臨床症状が髄膜炎と記載されていたもの)からのウイルス検出数は666であった(表1)。最も多かったのはエコーウイルス9型(E9)で247(37%),次いでコクサッキーB群ウイルス5型(CB5)で90(14%),CB2で70(11%)であった。E9は1990年以来5年間続けて検出数が多く,CB5は1990年以来4年ぶりの増加,CB2は1982年以来最多の検出数であった。また,2例と少数ではあるが,E33が初めて報告された
(本月報Vol.15,No.10参照)。
1989〜91年に大流行を起こしたE30は,1994年には髄膜炎症例からは検出されなかった。
各報告機関からの検出数を,地域別,月別に図2にまとめた。E9は,1993年に比べて,近畿および関東・甲信越では減少し,九州,中国・四国,東海・北陸,東北で増加した。1993年に報告数の多かったE11は,1994年にはほとんど報告されなかった。
エコーウイルスおよびCBの検出は,培養細胞を用いた分離により行われている。髄膜炎症例からのE9は59%(145/247)が髄液から,38%(93/247)が鼻咽喉から,26%(63/247)が便から分離された。CB5はそれぞれ64%(58/90),33%(30/90),42%(38/90),CB2はそれぞれ51%(36/70),49%(34/70),36%(25/70)であった(同一人の異なる検体から重複して分離された例を含む)。
1994年のE9,CB5,CB2の総検出数はそれぞれ412,291,248で,そのうち臨床診断名が記載されていた症例は388,239,191であった(表2)。髄膜炎と診断された症例の割合は,E9では63%であったが,CB5,CB2ではいずれも37%であった。E9が検出された2例,およびCB2が検出された1例が脳・脊髄炎と診断されており,患者の年齢はそれぞれ2歳と7歳,および0歳であった。
1994年にE9,CB5,CB2が検出された髄膜炎症例の年齢分布を図3に示した。E9では3〜7歳を中心に幅広いピークが認められるのに比べ,CB5,CB2では0歳が最も多かった。総検出数に対する髄膜炎症例からの検出数の割合は,E9では年長になるほど高くなる傾向がみられた。
図1. 地域別無菌性髄膜炎患者報告数の推移 1992-1994年(感染症サーベイランス情報)
表1. 髄膜炎症例からの年別ウイルス検出数1989-1994年 (1995年2月20日現在)
図2. 髄膜炎症例から報告されたウイルスの地域別,月別検出数 1993-1994年
表2. E9,CB5,CB2検出例の臨床診断名 1994年
図3. 年齢別E9,CB5,CB2検出数 1994年
|