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Vol.16 (1995/3[181])

<国内情報>
アデノウイルス3型による施設内感染−石川県


 肢体不自由児施設でアデノウイルスによる施設内感染が発生したので報告する。

 発生した居住棟は畳敷きの大部屋2室により構成されており,1号室に16人,2号室に19人が生活していた。年齢は3歳〜12歳であり,重症心身障害児が85%を占めていた。

 1994年8月20日(土)に2号室の3歳児Aが結膜炎を発症した。21日(日)には発熱もみられたため,1号室にある静養ベッドに移動した。22日(月)近医眼科を受診して流行性角結膜炎と診断された。以後1号室ベッド上を隔離区域とし,介助の職員は手洗い励行などの感染対策を行った。Aは母親の白内障手術のために緊急入園となった児である。また,母親からの聞き取りもできず,Aの感染経路は不明であった。

 感染は図1のように広がっていった。Aの発症より5〜7日遅れて,2号室の3人にAと同様の結膜炎と発熱の症状が出現した。同時期に1号室では6人が発熱したが,結膜炎はみられなかった。この時点で2号室を隔離病室として結膜炎のある子供を隔離した。症状のない2号室の子供は保育室を居室とし,また,家族が希望するものは家庭に帰した。その後,保育室や家庭に帰った子供の中から8人が発症したが,その中の1人は発熱のみであり,もう1人は結膜炎のみであった。1号室でも引き続き7人が発症した。その中の2人に1号室では初めて,結膜炎の症状がみられた。結局,2号室では19人中12人が,1号室では16人中13人が発症した。他の棟へ感染は広がらなかったが,Aと同じ園内保育所に通う措置通園児1人が,眼科にて流行性角結膜炎と診断された。

 当初,1号室と2号室では結膜炎の有無に違いがあったため,2つのウイルス感染症の可能性が考えられたので,9月6日に1号室は咽頭ぬぐい液(TS)を主に9人から(うち3人はESも採取),2号室は結膜ぬぐい液(ES)を主に8人から(うち2人はTSも採取)検体を採取した。このTS11検体,ES11検体について,HEp-2細胞およびRD-18S細胞を用いウイルス分離を行った。その結果,6日時点で症状のあった10人中9人(TS7検体,ES3検体)からアデノウイルス3型が分離され,1,2号室ともにアデノウイルス3型の感染であると考えられた。

 今回は初発児を2号室から1号室に移したことが感染を拡大させた原因と思われる。また,結膜炎の有無で患児を区別して2つの感染症を考えたが,1つの感染の流行の可能性を考える方が妥当であった。発現した症状の差は,伝播経路の違いによるのかもしれない。2号室は四つ這いなどで移動可能児が多く,1号室は寝たきり児が多い。このため2号室では眼脂を介しての接触感染,1号室では飛沫感染であった可能性が考えられる。

 なお,結膜ぬぐい液からアデノウイルス1型が検出された患児が1人いたが,検体採取日には症状は消失しており,今回の感染との関係は不明である。



石川整肢学園 林 律子
石川県保健環境センター 木村晋亮 尾西 一


図1. 発症及びウイルス分離





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